第二〇話








「それで、出陣の前に何のようですか?浩平。それも、この内容で」

王国軍の本陣。

浩平の目の前に呼び出された茜の顔は明らかに不機嫌そう。当たり前だ。気がついたら王国軍の 実戦指揮官に任命されているし、帝国軍の将帥まで預けられているのだから。面倒な事この上ない。

茜の傍には二人の女性が佇んでいる。

それも茜には良く分からなかった。この二人とはほとんど面識等なかったからだ。

「里村様の仰られるとおりでしょう。私も霧島さんも王女殿下の補佐をしなければいけません」

祐一が佐祐理を連れて行って、両親との再会を互いに望んでいる美汐を置いていなかったのはまさにそこ。

祐一が居なくなる。そうなった時、みさおの護衛役として適任なのは闇の仕事を熟知している美汐くらいしか 適任はいない。佐祐理は優秀な槍使いであり、優秀な魔術師ではあるものの、そう言った所には慣れていないのだ。

「祐一君も出かけるときにかのりんにみさおのことは任せたって言って出かけたんだよぉ?」

恥ずかしがって耳元で言ってくれただけだけど、と佳乃は笑う。みさおに聞かれるのが恥ずかしい、と祐一が 思っていると言うことが何となく面白かった。

浩平がまぁ、そうだろうな、と。

折原浩平。彼との付き合いは既に10年を遥かに超えている。それくらいのことは容易に想像できていた。

「この3人に集まって貰ったのは、だな?・・・・出来れば3人に一肌脱いで貰おうと思ってな」

ぴくっと茜の眉が動く。

彼がこういう言い方をする時は大抵厄介ごとを任されるときである。

と、そんな茜とは裏腹に

佳乃が、美汐が目を見開いて浩平の方を見る。

まるで、『今すぐ死んでくれ』と言われたかのように顔を蒼褪めさせて。

二人が視線を合わせること2,3度。

「佳乃?・・・美汐?」

思わず浩平が声をかける。

そうやって右手を軽く上げた浩平に二人が思わず一歩後ずさって

数秒。長い、長い、数秒。

美汐が何かを決心したかのように浩平の、茜の方向を向いて

美汐の右手が震えながら、洋服の裾にかかる。

何やらとんでもない勘違いが行われている事を浩平が気づいたのはその瞬間。

「ま・・・・まままま、待て待て待て待て!・・・・ちょっと待て、そんなことされたら俺が祐一に 殺される。良いか?一肌脱いで欲しいってのは、『ちょっと頼みを聞いて欲しい』ってことだ」

慌てて茜の方を見ると、『紛らわしい言い方をした浩平が悪いんです』と言う様に一睨み。

売られていく羊のような表情を浮かべていた二人がようやく顔を上げたのはその少し後のことだった。







「みさおちゃんを?」

ん?と思わず佳乃が小首を傾げる。

改めて、と一呼吸置いた浩平が告げたのは『みさおの傍に居てやって欲しい』と、それだけ。

佳乃も美汐も拍子抜けしてしまう。そんなことは、『夜になったら暗くなる』と言うくらいに 当然のことなのだ。

「勿論、私達はみさお様の護衛。寧ろこの瞬間、みさお様の傍を空けているほうが不安なくらいなのですが」

普段であれば相沢祐一と言う絶対的な信頼を置ける護衛がついている。彼さえ居れば、例え千人に襲われても 彼女の命は助けてくれるだろう、と美汐は思っている。

けれど・・・・・

「ああ、それは問題ない。二人を呼ぶことは先に立花さんに言っといた。今ごろは付いていてくれているだろう」

ああ。と思わず美汐も納得の息を吐く。なるほど。それなら万に一つの間違いもないだろう、と。

「あの人ならみさおに手を出す事もあり得ないからな。下手な男を傍に置いて置くと・・・・」

また始まった。と言う様に茜が眉を潜める。昔からこう言った話になると・・・・・無駄に、長い。

「浩平、話はそれだけですか?私もこのお二人も忙しいのですが?」

与太話の相手をしている暇はない、と言うように。

大体が、里村茜は今では王国軍防衛軍の実質的最高司令官なのだ。

当然軍を3つに分けると言うのはそういうこと。折原浩平、水瀬秋子。その次に来る人間は彼女を置いて他には居ない。

「っと。そうだったな。・・・・ああ、美汐と佳乃に対しての話はそれだけだ。みさおを、どんな時でも 支えてやってくれ。どっちかと言えば、兄としての願いだが・・・な」

こくっと二人が小さく頷く。最も、未だ何故このタイミングでこんなことを言われたのかは分からなかったけれど。







二人が退室するとその場に残るのはたった二人。

「で、だ。茜にはどっちかと言えば真面目な話だな。一応、これからの戦についての話、だ」

顔が変換される。

兄の顔から、将の顔に。

こういう時の浩平は余人を寄せ付けない雰囲気をもっていた。




「あの二人にはみさおを支えて欲しいと、言った。で、お前に頼む事はちょっと違う」

そう言って一息。

「祐一を支えてくれ。お前以外できる奴が見当たらない。」

ピクッと、思わず茜の肩が動く。

想像外のその言葉を聞いて。

「何故、私なのですか?浩平。長森さんが居ます。みさお様も、澪も居ます。霧島さんや天野さんや皇女殿下も。 その役目を私に言われる理由はあるのでしょうか?」

年長の立場で、と言うのなら長森瑞佳はあの少年にとっては年上の・・・姉のような立場。

恋人・・・・と言うより、内面的な関係においてだったら、みさお、澪、佳乃、美汐・・・それに、 帝国の美坂の次女も居るとも聞いている。当然、帝国の皇女殿下だって。

「だが、その中であいつの奥底まで理解できるのはお前だけだ。将帥としても、個人としても、な。 だって、お前達・・・・似てるだろ」

紡ぎだされる言葉に思わず茜が俯く。

似ている。思ったことは、あった。

誰の傍にも居る。けれど、・・・・けれど、決して誰も自分の心の奥底には踏み入らせない。

父親代わりの人が亡くなって、国が亡くなって。けれど、常に明るく振舞う。まるで・・・・・

「お前みたいだろう?」

そう。自分みたい

異民族の侵入によって幼馴染を殺され、自分の家に仕えていた多くの者を失った、自分みたいで。

「お前には詩子が居た。が、あいつにはそれがない。1人で溜め込んでやがる。帝国への旅路で少しは 吹っ切れてはいたが・・・・・」

そう言って浩平が苦々しげに舌打ちを一つ。

そんな浩平を見ていて、思わず茜が心の中に笑みを浮かべて

「浩平、先ほど私に貴方は『戦についての話』と言いました。これは戦についての話なのですか?」

問う。

「当然だろう?祐一に何かあったらみさおが混乱する。そうなったら澪もだ。あの二人が崩れたらお前だって 持たないだろう?ほら、戦の話だ」

くすくすと笑って。

「だがな?・・・・戦のことでも確かにある。・・・・・もし、祐一が表舞台に立つとき、それを 将帥として支えられるのも結局茜、お前しか居ない。俺はそっちには行けないからな」

国崎往人を先駆けに倉田一弥が強行軍を率いて返す、と聞いた時浩平は即座に同行を申し出た。

勿論、この時に両軍の総帥が共に民を救う軍を出す事で両国の関係改善と狙ったと言う事は有る。立花将軍の 軍を水瀬秋子に預けたのだって、久瀬有人や水瀬名雪の軍を借り受けたのだって結局はそこだ。

が・・・・・

浩平の中にはもう一つ、あった。

「国崎往人。・・・・浩平も、ですか?」

「ああ。お前と同じ事を思った。・・・・・国崎往人。才覚はある。・・・・祐一が託したのも分かる、が・・・・ あの二人だけで戦に送り出すのは無理だ。祐一が居れば迷わず祐一をそっちに派遣する所だったがな」

もし彼が例えば・・・北川潤や七瀬留美のような立場であったとしたら・・・・浩平も茜も 良将だ、と褒める所だろう。

が、彼の立場は帝国において倉田一弥の次に重い。彼が居なくなったら異端者、と呼ばれていた者は 居場所をなくしてしまうのだから。

そう考えた時に、彼が今までの戦でやってきた事は、浩平や茜、祐一のような者が『見』た時、 余りにも考えが無い、と言わざるを得ない。

最初の戦では北川潤に、次の戦では相沢大輔に、そして、今回は折原浩平に。

3回、彼は死んでいたはずだった。それは・・・・・あってはならないこと。

「七瀬さんも、ですからね。そうなると、私がこの立場になるのもわかりますが・・・・」

最も七瀬留美と言う将の立場ではそれは許される。それが留美や潤と往人の立場の違い、と言う事。

それは分かる。それを止める為に誰かがつかなければいけない事も。

けれど・・・・・自信はそこまで、ない。間違いなく一番厳しい戦線になるのは自分の所なのだから。

立花勇、折原浩平。王国の誇る2枚の翼は今や王国の手元には残っていない。

「そう、お前の所が一番厳しい。・・・・知ってるか?・・・・祐一の奴、公国と帝国の戦が始まる前から 色々と仕掛けを残していってるそうだ。ぶっちゃけて言っちまえば、帝国方面は何とでもなる。」

その内容については聞いても教えてはくれないのだろう。と茜は思う。

なぜなら、彼がこの男性にのみ話す、と言う事はそれだけの意味があるのかもしれないのだから。

最も、これについてはちょっと違う。浩平ですら詳細は知らされていないのだ。

「公国側もそうだ。立花さんをつけた。水瀬秋子のところにさらにあの人を配属すれば例え相手が倍、3倍居たとしても 破られる事は無いだろう。それに引き換え・・・・」

王国方面は、薄い。歴戦の将帥は居ないし、一隊で戦況を変えうるような・・・・例えば北川潤や国崎往人、 折原浩平の騎馬軍団のような切り札の存在もない。

水瀬の軍は精強ではあるけれども、爆発力には欠ける。勿論王国方面の最強部隊であることは間違いないのだが。

「分かっている。間違いなく・・・・・ある意味で、贔屓だ。・・・・・・だが・・・・・」

「分かっています。王国方面の戦力は少ないくらいでないといけない。そうじゃないと・・・・・」

軍割において、王国方面を優先的に守っていると思われかねない、と。

だから、虎の子の軍を。王国の最強部隊である立花勇と折原浩平の両者を、その精兵を他所に送った。

「本来なら、俺と茜の立場が逆でもいいくらいだ、が・・・・騎馬軍を率いると言うのは茜、 お前には無理だろう?俺が行くしかない。結局、お前しかいないってわけだ」

「そんなことは・・・・」

茜にだって、言われずとも分かっている。

立場的には候補は居る。

例えば、前述の立花勇や国崎往人、それに長森瑞佳。

けれど、一人はその折原みさお個人の騎士と言う立場が王国方面の実戦指揮官と言う立場に立つ事を 許さないであろうし、後者の二人は・・・・実力不足。

ある意味で帝国の若手将校の中で最もその任に堪えうる者という条件で探した場合、おそらく浩平も茜も 寧ろ久瀬有人と言う人物と選ぶ。

総司令官と将校の違いはそこ。将校はある意味で一つの特技があれば勤まる。北川潤、七瀬留美等は 仮に防衛戦をしろ、と言われたら話にならないけれど、事先陣突撃と言う分野に置いては強力無比。

けれど、総司令官はそれではいけない。攻に偏っても防に偏っても、何時かは崩れる。

そして、帝国の若手は基本的に攻に偏った指揮官が多い。まぁ・・・・常にそう言った戦しか 経験していないのだから無理はないのだけれど。

久瀬有人はおそらく最もバランスの取れた将と言える。けれど・・・・どちらの能力も 数万の軍勢で倍以上の軍勢にぶつける指揮官としては、不足。

長森瑞佳と言う女性の場合はその性格が問題となる。もし、全体の総司令官と言う立場に彼女を置いてしまったら・・・・

その軍は動くことは出来なくなる。例えば10の意見が出た時に彼女はそのどれか一つを『これ』と決める事は 出来ないだろうから。

つまりは、結局の所その立場に見合うのは自分・・・・里村茜と、あとは・・・・・1人しかいない。

その1人は今ここには居ない。だから・・・・・

「祐一を、支えてくれ。大丈夫だろうさ、お前なら。・・・・それと、これは命令だが。・・・・・ いかなる場合においても、祐一が来るまでは攻勢には出るな。逆に・・・・・・・いや、これは言う事じゃないな」

くすっと笑った浩平が茜の目をじっと見据える。

1秒・・・・・2秒・・・・

それがもっと、もっと。

「分かりました。・・・・・浩平、ご武運を」

ふぅ。と一息を入れて

立ち上がった茜は既に浩平のことを視界にいれていない。

今の彼女は、唯・・・・今から率いる事になる数万の兵のことだけを考えなければいけないのだから。

「祐一のこと、頼むぞ?・・・・何なら他の連中から取っても構わんから」

くすっと後方からの声に笑みを浮かべる。

「そう浩平が言っていたとみさお様達にお伝えしておきます。それでは」

陣幕を出る。後方からの嘆願をシャットアウトしながら。

そしてゆっくりと、歩き出した。







「立花様、ごめんなさい・・・・勝手に」

ぺこっと頭を・・・・勢い良く下げるみさお。

本人の居ない間に主家の仇と同行させることを決めてしまったのだから謝罪は当然あるべきだろう。

「いえ、私は元より祐一様から聞かされておりましたゆえ。・・・・おそらく共同戦線を張る場合私の 戦場は公国になるであろう、と」

死ぬつもりだった彼がそう言ったと聞いて思わずみさおが目を見張る。

つまり、彼は・・・・・

帝国10万の兵士を2万の公国軍で迎え撃つ時既にこうなることを予期していた。

そういうこと。

「まぁ、心ならずも私の名は公国ではそれなりに伝わっておりますからな。・・・・・幾人かの酋長は 祐一様の存在も知っております。ですから、それを私の口からほのめかす事で協力も得られるでしょう」

基本的に公国の民で男性の中に軍事訓練を受けていない者はほとんどいない。つまり、こう言った時には 1人1人が巨大な戦力に成り得る、と言う事である。

そう言った勇は今度は澪の方を向いて

「澪様、みさお様の事、祐一様の事お願いいたします。・・・・私の主人は貴女様方の危機の際には 必ず白騎士団を率いて馳せ参じてくださるでしょうから」

こくっと澪は大きく頷く。

「でも、祐一君だけに、白騎士の方々だけに戦わせる事はしません。ですよね?」

もう一度、今度は先ほどよりも大きく、頷く。

「帝国の方にも既に使いは出ております。この時の為に幾つか手は打ってあるのですよ。きっと その一つ一つが実を結ぶでしょう」

勇は祐一が仕掛けた一つ一つを知っているわけではない。浩平とて同じ。全てを理解しているのは 祐一の命で動いている諜報の・・・・それも、実行班の者達だけ。

数年もかけてゆっくりと作り上げた仕掛けと聞いている。効果のほどは実行される前からわかっていた。

「それでは、お二人も・・・・御武運を。私はこれから水瀬将軍との軍議がありますので。・・・・ 美汐様、佳乃様がお戻りになられるまではこちらで護衛させては頂きますが・・・・・っと、戻ってまいりましたね」

陣幕の外から聞こえてくる声。最も独り言に聞こえてしまうくらいの会話ではあるのだが。

とにかく、その二つの声に勇はゆっくりと陣幕から出て行く。

残された二人は、小さく頷きあう。お互いが人生で最も長く付き合っている相手同士。言葉は、要らなかった。







「う〜。久瀬君、どうしよぅ・・・・里村将軍って、この間の戦でぶつかったんだけど、すっごく怖かったんだよ。 何をしても軽く受け流されて、読まれて、一歩前をいかれちゃう。」

名雪が怖がるのはまぁ、当然だろう。何しろ里村茜と言う将軍には危うく命を取られかけたのだから。

あと数分。本陣の近くまで敵軍の槍は迫っていた。

元より里村茜と折原浩平と言う将帥は自分が愛し、尊敬する母親と並び賞される名将だった。

けれど、所詮は同じ年代、自分達だってそう劣るものじゃないはず、と

でも・・・・それが慢心であった事に気づいた。ショック、自信の喪失、などなど・・・・・

「しょうがないだろうね。何しろあちらの軍歴はこちらの・・・・そうだね、僕に北川君、水瀬さんに 美坂君の全員を足しても尚足りない。それに、里村将軍の家は貴族とは言えども少なくとも、お世辞にも 名家とは言えない貴族。 つまりは、完全に実力だけであの地位に上りつけた方、と言うことだよ。」

彼自身とて自負はある。帝国の将帥、全員集めても両手の指で数えられる順に来れる実力がある、と。

しかし、相手は紛れも無く三国を併せても尚、五指に入るほどの将帥。故、相沢祐一もその軍才を 高く評価していたと聞いている。

「何事も勉強、だよ。これから里村将軍・・・・いや、折原姫将軍の指揮下にはいるんだ。学ぶことは 余るほどにある。」

常に上を、またその上を。

目標は出来た。先の戦で破れた公国きっての名将。

勝ちたい、と言うわけではない。唯・・・・あんなふうに在りたい、と。

そして、借りを・・・・相手は貸しとは思っていないであろう、借りを精一杯尽くすことで、返す。

「ねぇねぇ、名雪さん。こっちの準備は出来たよ?」

「あ、うん。ごめんね、あゆちゃん。・・・・そうだね。里村将軍と折原姫将軍殿下にご挨拶に向かわないと」

名雪とあゆは一つ、決意をしている。

二人に会って、話す。一つだけ、これだけは譲れないことを・・・・・







そして、それから短い時が流れ、各隊が行動を開始する。

つい先日には敵と味方に別れ、殺し合いを行った者達が一緒に。

神話の世界においても、そして今においても。

人の心を一つにするのは共通の敵に対するときだけなんだろうか?

そんなことを考えて、みさおはちょっと悲しく思った。

そして、この戦が終わった時には・・・・どうか、と。

心から願う。

それを適えさせる為に大輔様や白騎士の方々は命を散らせたのだから。

そして、みさおは進む。

公国の旗、帝国の旗、王国の旗。

その三旗を全て横に並べた軍隊の行進。

その先頭に、佳乃、美汐、澪と並んで。







一方で、浩平は駆けている。

聖者の丘からオーディネルまでの距離は凡そ三百四十キロ。

その距離を浩平は四日半で行こうとしている。

だから、その為に既に狼煙を用いて、各地に替えの馬は配備させている。

四日でオーディネルに。そして、とんぼ返りで軍勢の後を追えば、十分追いつけるはずだ。と浩平は計算していた。

聖者の丘から、おそらく倉田一弥の別働隊は五百キロ程度の道のりを三十日程度で踏破するだろう。

日計算で毎日十六,七キロ。整っていない荒地の行軍と言う点においての進軍速度としては異例とも言える。

一方で、浩平は時速八キロ超の速さで一日に十時間移動する。

これで、浩平が毎日八十キロ移動すれば、それとほとんど変わらない速度で向かえるであろう、と。

途中で追いつき、その後に細かい行動を定める。出来れば二十日くらいでは追いつきたい、と。

勿論、その速度は馬にではなく、浩平本人に恐ろしいまでに負担をかける強行軍となるのだが・・・。

しかし、それを行うのが自分の成すべきことであることを浩平は理解していた。













あとがき

行軍速度についての補足です。

毎日十六,七キロと言うと、そこまで速くないようには思えますね。(マラソン選手は1時間しないで走りますし。)

しかし、食糧や武器等を抱えて、当然休息を取る為に休む為の場所も作らなければ成らない。食事も用意しなければならない。 しかも馬を乗り潰す事もそうそう出来ない。そう言った状況においては相当に速いです。

ちなみに、豊臣秀吉(当時、羽柴)が明智光秀に対する時に行った大返し。その時の軍勢は騎馬軍団ではなく、普通の軍隊でしたが、 当時の彼等は食糧等を全てその地元の農民に前もって用意させたりして、様々な軍隊行動を省かせています。

それでも尚一番多く行軍した日が五十キロ超と言う程度。

なので、そう言った行動を全て行わなければいけない状況。しかも、三万近い大軍ではこんなものでしょう。(むしろ、速すぎるくらいとも思っています。)

まぁ、旧日本陸軍は一日30キロ程度の行軍と言う事ですし、ちょっと割り引いて、と言う感じで。

・・・一方、浩平のやろうとしていることが実際に出切るかは私にはわかりません。

しかし、一人だけを動かす為に、食糧、替え馬等全てのしたくを整えて、移動する、休むの二つ以外の行動を全て省けば可能である。と思って書きました。