第六話






「先ず・・・今回の件、任されたのは公爵代理としての祐一だが、二人で相談してもう結論は出ているから 俺からでいいだろうか?」

と聖を前にすると大輔は切り出した。

祐一は限界ぎりぎりまで無茶をした結果少なくとも3日は起きないだろう。

国が絡んでくる前に済ませる必要があると祐一も大輔も思っていた。

聖と往人はその言葉に黙って頷く。

「それで・・・・何処までの人間が罪に問われるのだろうか?」

聖は先ずそう切り出す。

自分はともかく、出来るだけ多くの者を助けたかった。

「出来れば・・・私一人の命だけでなんとか購えないだろうか?」

だから、彼女はそう主張する。

普通、蜂起をし、さらに、国の使者としてやってきた相沢家に戦いを挑んだ以上将校以上の者は全て処罰されるのが規則だが、 この人達ならそれで許してくれると言う期待感があった。

「実際兵士を率いたのも相沢家に逆らったのも俺がやったことだ。当然罪を被るのは俺に決まっているだろう」

横から往人が切り出す。

実際、相沢家に逆らうことは往人が独断でやったことであった。

二人はその場で大輔を前にして、罪を被りあう。

大輔は軽く頭を振った。

「当然、蜂起などと言う者は一人だけの罪ではなく参加したもの、その家族全員の罪。当然平等に同じ処罰を与える」

大輔は厳かに言った・・・・・・・ただ、心の中では笑っているのではあったが。

その言葉に二人は項垂れる。

出来れば、自分達に付き合ってくれた人間達は見逃してあげて欲しかった。

「ただし、戦闘なしで降伏を申し出たことは賞賛に値する。よって、死刑は免除とする」

続いて出てきた言葉に二人とも唖然とする。

ついさっき、戦闘をして打ち破られたのは何処に行ったんだろう?と二人そろって思った。

「俺達は、実際あなた方に挑んで敗れた。戦闘があったのは事実ではないのか?」

その言葉を待っていたと言うばかりに大輔は笑った。

「あれはあくまで、実戦訓練だろう?だから、俺達は武器に布を巻いていたし、術を使うときも殺さないようにした。それに、俺達の軍は一人として怪我人も死者も出ていない」

はっきり言ってこじ付けである。が、それを主張出来るように祐一は武器に布を巻き、殺すなと厳命したのである。

本気で殺し合い、お互いに死者が出てしまっては戦闘訓練等と言えようもなかった。

まるで悪戯が成功したとでも言わんばかりの表情の大輔に二人はさらに呆けた。

(最初から・・・・・ここまで想定してこの人達は動いていたのか・・・)

二人とも呆然とする。

戦闘でも、行軍の読みでも見事に負けていて、適わないとは思っていたが、ここまで差があるとは思っていなかった。

このとき、二人は自分達は完全に負けた。と思った。

「それで・・・罪を軽くしてくれるとして、どういう処罰を与えられるんだろうか?・・・・・俺の命はともかく、観鈴や佳乃達だけは救って欲しい。あいつらは何も知らない」

往人は土下座でもしそうな雰囲気で詰め寄る。横では聖も同じようなことを言っていた。

「処罰はあくまで全員。それに変わりはない!!」

大輔はきっぱりと発言する。二人はその場で項垂れた。

負けた者の宿命としてしょうがないのである。また、実際、この人達には佳乃や観鈴が救われている。

強行的に逆らうわけにはいかないし、多分これでも精一杯譲歩してくれるのだろう・・・と思って。

「さて・・・それでは、お前達を代表者と認めて、処罰を伝える。他の者達にはお前達が伝えろ。いいな?」

こっそりと笑みを浮かべながら厳かに。こんな楽しいことは祐一もやりたかったろうに・・・と、眠りについている甥を心から哀れむ。本当に 楽しくてしょうがなかった。

二人とも表情が硬くなり真剣な顔つきになる。

「蜂起に参加したものは全員国外追放の刑に処す。いいな?」

・・・・・これが、祐一の書いたシナリオであった。

「国外追放?」

聞きなれない台詞に二人とも顔をシロクロさせて同じことを呟く。

強制労働や、懲役刑、または死刑のような罰がくだるものと思っていただけに以外な言葉であった。

「これより、2週間以内に蜂起に参加したものは国を出るように。もし、国内にいるを発見された場合は強制的に退去させることになる」

追加で一言付け加える。国に文句をいわれる前に何とかする必要があったからだ。

「しかし・・・国外追放と言っても・・・私達は家族を含めれば7〜8000人はいる。とてもその人数が行くところなんて・・・」

その聖の言葉に大輔はおおっぴらにニヤリと笑う。この瞬間が楽しいから悪戯をやめられないのである。

祐一に言わせれば、最初から内容を説明して、不安を感じさせるなと言うだろうが、大輔にとってはこれこそが生きる意味であった。

「俺達の国はあくまで独立国だし、土地も余ってるぞ?どうだ?」と

そして大きく、豪快に笑う。

二人も、その時になるとようやく何を言わんとしているのかを理解する。

つまりは「お前達をあの馬鹿の下から逃がしてやる」と言うことである。

二人は顔を見合わせると、笑って「喜んで」と言った。嵌められたことも分かったが、不快感は感じなかった。

「それで・・・・・出来れば速めに答えを頂きたいんだが・・・。流石に、余り遅れるとまた難癖つけられる」

大輔は苦笑しながら言う。

王や、他の貴族の悪口を大っぴらに言えることは彼にとって快感であった。

何しろ、流石に王都に居てはあまり言うわけにも行かないのだから。

二人とも、今からでも移動出来ると言った。

最初の取り決めでは、聖の命令には誰も逆らわないと言うことになっている。

先ほどの往人のように、暴走する者も多々あるものの、このような申し出に断る者が居るとは思えなかった。

「ただ・・・とりあえず、条件などをお聞かせ願いたいのだが・・・」

少し落ち着き、聖が質問する。今より待遇が悪いと言うことはあり得ないのだが、聞いておくことで皆に説明するのも楽になるのである。

「とりあえず・・・税は当然納めてもらうことになるし、もしもの場合は協力してもらうことになると思う」

「税とは・・・収穫のどれくらいなのでしょうか?」

ちなみに、現状で彼らは6割から7割の税を納めている。

「基本は2割。ただ、有事の場合は5分ほど上げる可能性もあるからその辺りは覚悟して欲しい」

ちなみに、大輔は、質問されそうなことを全部すぐ答えられるように暗記している。

それは、二人にとっては想像以上に安い税だった。

「家や、畑等は自分達で作ってもらうことになるだろうが・・・・・あなた方には、出来るなら城での仕事をお願いしたい」

今、相沢公国には異端者と言う者が大量にいた。

勿論、公国では『異端者』等と言う呼び方自体ありえないからあくまでの分類上であるが。

それらの人の纏め役として今回のような大規模の者をまとめた人間達の協力が欲しかった。

それらのことを説明すると、二人は快く頷いた。

それは、願ってもない申し出だった。

「ちなみに・・・今回の私達を入れて、公国に私達の仲間はどれくらいいるのでしょうか?」

自分達が纏め役となるのならその人数くらいは弁えて置きたかった。・・・・・・だがこの言葉はこの会談での最後の驚愕を彼らに与えた。

「全部で・・・現状だと全部で8万と言う所だなぁ。最も、正式な数は国に帰らないとわからないが・・・・・」

公国は、少しずつ異端者の回収を集落単位で行っていたのであった。

彼らは、一瞬にして、数万の人間の纏め役になった。





移動は速やかに行われた。

会談の後、往人と聖が将校達に事情を説明すると、各人が集落毎に馬で回り、翌日には全員聖達の柵に集まっていた。

誰も拒む者もいなかった。

地獄から天国へ招待されたと言われて嫌がる者なんているわけがないのである。

なので、彼らは移動中である。

公国まで徒歩でだいたい1週間はかかる。

先ず大輔は公国に移民が移動中であると言う報を告げる為、馬の扱いに長けている者を一人選び送っている。

馬で駆け続ければ1日で着くはずである。

ちなみに、祐一はまだ眠っている。禁術を使用する代償は軽い物ではない。

「しかし・・・8万人の纏めだなんて・・・」

と言う往人の呟きに大輔が馬を寄せる。

ちなみに、先頭を大輔が走り、その後に往人と、往人の部下の騎馬隊が続き、後ろに民衆。そして、殿に白騎士団と言う隊形で移動している。

祐一は、観鈴や佳乃と一緒に急ごしらえで作った簡易馬車に乗せている。その回りは数人の白騎士が固めていた。

「お前が担当するのはせいぜい1万かそこらの人間を兵士となして軍を作るだけ。たいしたことじゃないさ」

「そうは言っても・・・俺は軍の指導者としては失格だ。昨日の戦いだってあんたらが手加減してなかったら仲間を大量に失っていた」

自分達は同数以下の軍勢には絶対負けないと自負していただけに、昨日の負けは彼にとってショックだった。

「それについては落ち込む必要はないぞ。白騎士団に7〜8倍の人数で勝てる軍勢なんて何処探したっているわけない。まぁ・・・確かに 問題点もいくつもあったがな」

元々、騎兵一人が歩兵5人に相当すると言うように、魔道騎兵一人は騎兵7人に相当すると言われる。

しかも、彼らが始めて戦ったのはその中でも世界最高の魔道騎兵部隊なのだから、7倍程度の数で勝てるわけがないのであった。

大輔はさらに往人の馬に馬を寄せると、肩をぽんぽんと叩いた。

実際、彼から見たら往人は指揮官としては非凡な物を持っていると思っている。

相手が悪すぎただけであって、祐一以外の同世代の次期指揮官らと比べても全く見劣りはしない・・・それが往人を見ての大輔の感想である。

「オーディンについたら色々教えてやるから安心しろ」

その言葉に往人も黙って頷いた。

相沢公国の首都オーディンまで一週間。

早く祐一が目覚めないものだろうか・・・と大輔は思った。

あくまでリーダーは祐一なのだから・・・と。





「祐一さん起きない・・・」

目の前に寝ている少年を見下ろしながら観鈴が呟いた。

隣には佳乃が座っていて、向かい側の椅子には祐一が寝かされているのである。

大輔から数日は起きないとは聞いていても、自分の治療をして数日寝込んでいるのだから気にならない訳がなかった。

治療が終わりすでに3日。聞いていた話だとそろそろ起きてもいいはずである。

また、往人や晴子、聖等は皆指導者としての立場上ほいほいと会いに来るわけにも行かなかったし観鈴や佳乃はとても退屈していた。

「ねえねえ、祐一君ってどういう人なのかなぁ?」

と佳乃がいきなり観鈴に問い掛けた。

「にはは・・・私も良く知らないよ」

観鈴は笑って答える。

観鈴が知っているのは祐一が自分を治してくれたと言うことと、綺麗に光る槍を持っていたと言うことだけ。佳乃が知っているのは 祐一が観鈴を治してくれたと言うだけである。

二人は揃ってため息を付く。

同じようなやり取りは既に何回も行われていた。それだけただ馬車に乗っているだけと言うのは退屈なのであった。





「腹減ったなぁ・・・」

それが第一声であった。

出発後3日、つまり、治療が終って4日たった日の朝祐一は目覚め、目の前に見覚えのある少女二人が自分の 方を向いてきょとんとしていることに気づく。

「えっと・・・観鈴と佳乃だった・・・か?」

一人は自分が村まで乗せていった少女。もう一人は自分が治療を施した少女だと覚えていた。

「わ・・・起きた」

観鈴はすぐに慌てて馬車の外にいる白騎士にそのことを告げに行く。

起きたらすぐ知らせて欲しいと言われていた。

佳乃はただわくわくした顔で祐一のことを眺めている。

「・・・何だ?」

祐一は怪訝そうに聞く。世界の何処にも、いきなり訳も分からず見つめられていい気分になるものはいないであろう。

「ねえねえ、君の名前は何て言うの?」

勿論佳乃は彼の名前を知っている。ただ、本人の口から聞いてみたいと思った。

「俺は相沢祐一だ」

祐一は正直に答える。下手に嘘をつくとその名前で一生呼ばれそうだった。

少女は「祐一君だねぇ〜」等と言いながら笑っている。

祐一もそれにつられて笑った。





「祐一、目がさめたか!!」

十数分もすると大輔が馬車の幌を捲くる。

彼は祐一が目覚めたと言う報を聞くや否や馬の乗って駆けつけてきた。

いくら言われたとおりにしたと言っても、何処か手違いがあったら・・・と心配ではあった。

一方祐一は、何でここまで急いで飛んでくるのか分からない様子できょとんとしながら食事を中断する。

理由を聞くと祐一は笑って言った。おじさんを信頼してるから大丈夫だ。と。

このコンビは普段はお互いからかい、からかわれたりしているが、実際問題、互いを深く信頼しあっている。

お互いがお互いを父であり、子供であるかのように思っているのであった。

「大丈夫か!!」

それから数十秒もすると、今度は往人が駆け込んで来る。

往人も、観鈴に対しての、そして、今回の件についての礼を言おうと待ち構えていたのである。

それに、お礼以外にも祐一には色々と話したいこともあった。

指揮官としても、個人としても完敗した相手に往人はかなり興味を持っていた。

祐一も、往人に興味を持っていた。

祐一にとっても一人の為に感情を剥き出しにして襲い掛かってくる人間と言うのは記憶にあまりなかったし、 これだけの人数を纏め上げた人間を見てみたかった。

あくまで祐一は自分についてくる人間がいるのは自分の立場のおかげだと思っている。実際はそんなことはないのだが、彼は自分と言うものを信頼 していなかった。

少し語り合うだけで、彼らは互いを名前で呼び合う様になる。

やがて、ある程度の元気を取り戻した祐一は、大輔や往人と共に先頭を馬で走るようになった。

往人や大輔、それに、ただでさえ退屈な佳乃や観鈴は馬車に残るように言ったが、祐一が馬に乗りたがった。その結果である。

観鈴や佳乃はその代わりとして、彼らのすぐ後ろに馬車を付けることを要求した。

聖や晴子は全体の統率で忙しいのだが、彼らは以外と暇なのであった。

結局、悪戯好きな往人が大輔に同調して、祐一をからかい、本気にした観鈴と佳乃がそれに上乗せし、祐一を 疲れさせていく。そんな日々が数日間続くことになったのである。

そして、行軍を始めて一週間。彼らはついに首都近くの町に到着する。

ここで、一度解散して、順番に入国民として認められた者から公庫から食料を借り受け各地に散らばって行く。





全員祐一達に感謝して離れていく。しばらくの間借り受けた食料分税が微妙に重くなるが、それでも今までの 半分以下の税でいいと言われて彼らは喜んでいた。

しかも、ここでは彼らは普通の人間として扱われるのである。

子供は好きに遊びまわることが出来て、女は好きな人間と一緒になることが出来る。

それだけで彼らは幸せだった。

そして、往人達も自分達のおかれた境遇にびっくりする。

祐一達によって城に案内されると、大量の人間が彼らを待っていた。

それは、大輔が先に送った使者によって伝えられた命令で、各集落の長は全員城に集まるようにと言っていたのである。

長達は祐一や大輔の姿を見ると一斉に頭を下げる。

あくまで、祐一達は彼らにとっては恩人なのである。

毎回のことで慣れてしまっていたが、最初は祐一が毎回「やめてください」と慌てていたものである。

「さて・・・今回、あなた方の仲間が8000人ほど増えることになりました」

祐一は全員に挨拶すると先ず呼び出した理由を告げる。勿論、その8000人とは往人達のことである。

その言葉に一同も騒然とする。

今までにも1000人程度の大規模な亡命者はいたが、1万近い人数が大量に入ってくるのは初めてのことであった。

「こいつらは例の国に一泡吹かせた英雄達だ」

大輔が全員に向かって聖や往人、晴子を押し出す。

途端にその場に歓声が響き渡った。自分達の仲間で国に一泡吹かせている彼らのことは、彼らの間でも噂に なっていたのである。

「とりあえず、我が国としては、この国崎往人さんを指導者として、あなた方の集団を一つに纏めたいと思っています」

祐一は本日の主題を述べる。長達全員に往人のことを認めてもらうのが今回の主題であった。

流石に、急に指導者と言われてその場が騒然とする。

「それは困る。俺よりも聖さんや晴子さんに任せるべきだ」

往人は座っていたが、慌てて腰を浮かせる。

「お前がこの前の戦の英雄だ。20を過ぎているなら年も不足はないだろう。少なくとも、俺と祐一が 認めている。聖さんらも同意してくれた。もし、兵士を集めるにしても国相手に一泡吹かせたお前になら 全員従う。確かにこの前の戦、段取りまで全て聖さんが行ったが、それでもやっぱり実行したお前がなるべきだ・・・と思う。 少なくとも、勝った人間そのものを出した方が賛同は得られやすい。 それに、纏め役になると言うことはこれから数十年この国で働くことになる。そのためにも祐一とほぼ同い年で仲のいいお前が一番適任 だろう?」

その大輔の言葉に聖や晴子も頷く。実は、本人達は「面倒ごとは(ごめんだ)(嫌や)」等と言う立派な理由をもっているし、それを祐一や大輔も 聞いているのだが、あくまでそれは聞かなかったことにしている。

ここで一番重要なことは、この扱いやすい人間をいかにその気にさせるかと言うことだ。

「国崎君、せっかくの相沢公爵代理のお言葉だ、荷が重いだろうがここはお引き受けした方がいい」

とどめを刺すように聖が真面目な顔で話す。

実際に、聖は祐一達とどうしても往人が断った場合聖がやることと約束させられている。

ここで認めさせなければこの面倒な仕事は彼女に振り分けられる。

ここでの説得はまさに『死活問題』なのである。

ちなみに、この時点で往人は半分騙されている。聖や晴子が本心から自分に全てを任せようと一生懸命になっていると思ってしまっているのである。

この微妙に素直な所は彼のいい所でもあり、欠点でもあった。

この頃になると、各地の長も落ち着きを取り戻して会話の流れを見守っている。

確かに、思えば実際に国相手に大勝した彼ら以外にここにいる全員を纏められるものはいないと全員思っていた。

そして、自分達が相沢家に恩返しするためにも彼らの力が必要だと言うことにも。

「俺なんかで本当に構わないのか?」

往人は呆然とした顔で聖、晴子、大輔、祐一を見渡した。彼らは黙って首を縦に振った。

さらに往人は満場の長達の方を見渡す。

往人に返ってきたのは満場の拍手だった。

人形劇をやっていた時は決してもらえなかった満場の拍手。

往人は何処か嬉しかった。

(自分が自分で満足するだけでなく、他人を満足させることで貰える拍手・・・か)

往人は自分が聖や晴子、大輔に騙されていることも知らずに満足していた。

ある意味哀れだった。最も、大輔にとっては聖や晴子も往人と同じように嵌めた相手でしかなかったが・・・・。





「何でウチがそんなアホなことせなあかんねん!!」

「国崎君?君は私に喧嘩を売っているのかい?」

二人は飄々とした顔で二人に命令を下した自分達の指導者に牙を剥いた。

二人には、今回『指導者』である往人から命令がくだされている。

曰く「軍団歩兵部隊右軍大将と左軍大将」および、二人纏めて執政官である。

つまりは、軍事の大半と行政の全てであった。

「指導者の命令に従うとさっき全員の前で約束しただろう?」

ちなみに、往人は何処吹く風と言う感じである。

話を遡れば数十分前、往人が自分にこんな大役を任されていいのか?と祐一や大輔に聞いたときである。

大輔はこう言った。

曰く「指導者と認めた以上全員お前の命令に従う。なら、好きなだけ使いまくればいいじゃないか」

往人はそれを忠実に実行したのであった。

ちなみに、元から大輔は聖や晴子に往人をリーダーに薦めるよう説いた時、既にここまで計算していた。

結局、大輔に騙されたのは往人だけではない。つまりは「騙したつもりがなんとやら」であった。

「居候!!あんたはウチらにそんなに任せて一体何をすんねん!!」

納得いかないという形で詰め寄る。

これでは往人に押し付けた意味がないと心の中で思っていた。

「俺は騎馬隊の修練。それだけ」

往人はそれだけ言うとその場を離れる。後には呆然とした表情の二人だけが残された。

『・・・・・・やられた・・・・・』

このとき二人はようやく騙しながら騙されていたことに気づいたが、それは既に後の祭りだった。

ちなみに、先ほど長達と協議した結果、各村から数人ずつを出してもらうことになっている。

その場で決まった編成は歩兵部隊1万と騎馬部隊3000の計13000の軍の編成であった。

最も、これは全てを一斉に集めるわけではない。常に常駐するのは将校となる100人程度で、他の者は1ヶ月ごとに交代交代で約3000にんずつ集められるのである。

計算してみれば、聖や晴子はそれぞれ5000人の長である。

それは、楽しそうに「手伝ってやる」と祐一に言われている往人の騎馬隊育成に比べたらとてつもない量だった。

二人は悔しそうにため息をついた。





「私達は何もすることないのかな」

観鈴と佳乃は往人と祐一が話している場所まで行くと開口一番そう言った。

佳乃に言わせれば「往人君もお姉ちゃんも一緒に何かやろうとしているのに私だけ仲間はずれなんてお〜ぼ〜だよ」と言う感じである。

勿論、二人とも彼らが軍を率いることは知っていたし、それの手伝いを出来るとは思っていなかったが、やっぱり何か手伝えることがあれば手伝いたかったのである。

往人と祐一は黙って顔を見合わせる。二人ともこの二人に何かさせるということは始めから念頭においていなかった。

その間にも二人は期待するような目を二人に向けて来る。

「・・・・・・・祐一、任せた!!」

「おっおい!!」と言う祐一の声を無視して往人は逃げた。

ダッシュで、そして止まることもなく駆け続けた。

そして祐一は一人残された。

「あの裏切り者・・・」

祐一は首をがっくりと下げた。ここまで期待するような目で見られてどうすればいいかと悩んだ。

(まさか軍に入れるわけにもいかないしなぁ・・・)

名雪や香里、栞等は確かに常備軍の中で次期指揮官として女性ながら訓練してはいるが、この少女達にそれをさせる気にはならなかった。

何より、命を取ると言う行為をこの少女達が好んでやるとも思えなかった。

「・・・・・・二人は何がしたいんだ?」

結局祐一は二人に聞くことにする。大抵のことなら叶えられると思った。

『(往人さんと)(お姉ちゃんと)同じことがしたい』

祐一は頭の中で往人と一緒に槍を持って馬に乗ったまま突進して行く観鈴や、歩兵部隊の指揮や執政官として働く佳乃を想像した。

無理だと思った。

「・・・二人とも料理は出来るか?」

結局祐一は無難に纏めることにした。

ただ、後に問い詰めた往人と、その場にいた聖にその話をしたら二人とも青い顔をして去って行った。

その理由を祐一が知ったのはその日の夕食の時間であったが、その後佳乃は祐一の所で働くこととされた。

祐一の仕事は「好きなことをすること」である。