祐一はとりあえず一旦体制を立て直すともう一度、今度は大輔と共に村まで走り、聖に対面して言った。
往人は近くで項垂れている。初めての敗北がショックだったのだろうと思われた。
「分かった。そちらの言うとおりにしよう」
と聖も言って頭を下げた。
彼女も、勝てないだろうとは思っていたもののまさかここまで差があるとは思っていなかったらしくショックを隠せない様子であった。
その言葉に祐一も安心したように笑った。
全て任せると言ってくれた以上、祐一は蜂起鎮圧の任務を果たしたことになる。
つまり、彼らの処分についても独断でやることが出来る。
だから、祐一はこの言葉を待っていたのである。
ここで、自分達の方から「俺に任せれば〜〜を譲歩する」とは言えない。あくまで、彼らの方から降伏を 申し出て、それに対して祐一達が事後処理をすると言う形でなければいけないのである。
「そちらに任せる」の言葉は祐一に全てを任せたと言うこと。それなら、いくらでも彼らの為に動くことも出切る。
祐一は昨日佳乃が「友達を助けることのできるお医者さんを王都に探しに行く」と言う言葉を思いだした。
「とりあえず・・・・この前の貴方の妹が、王都まで友人の病気を治すための医者を探しに行くと言っていたのですが・・・」
その言葉に往人が反応する。
それは当然観鈴の事以外ありえない。
「観鈴をどうするつもりだ??!!」
「国崎君、落ち着け!!」
いきり立つ往人を聖が宥める。
だいたい、祐一達が佳乃の友人を観鈴だと知っているわけがない、と聖は諭した。
「それを聞いて君はどうするつもりだ?」
聖は探るように聞く。
もし、彼らが観鈴のことだと知っていたとしても、彼女や佳乃を連れて行くようなことはしないだろう。と聖は思っていた。
連れて行く気だったのならわざわざ佳乃を返す理由がなかった。
「いや・・・ただ、もし、大変な病気だったら一応俺が治せるかもしれないし、それで駄目でも病院に連れて行けるかもしれないだろう?」
何を聞いているんだ?と言う感じの顔で祐一は聞く。
二人は顔を見合わせる。思いがけない言葉だった。
「お前達は佳乃や観鈴を王に献上するために来たんじゃあないのか?」
往人が不信そうな目で聞く。
彼にとって、国の貴族とは王に諂(へつら)う屑と言う印象しかない。
最も、それは、斎藤辺境伯と言う悪すぎる一例によるイメージでしかないが、最初にあったものがあまりにも印象が悪い場合、それは、その集団全体の イメージとして取られることが多い。それはある意味真理である。
その言葉に大輔の顔が心底嫌そうな顔になり
「あんな屑と一緒にしないでくれ」とはっきり言った。
あくまで彼の主人は慎一と祐一以外の何者でもない。
その言葉に祐一は黙って苦笑する。
流石に、王に向かって屑と言ったことがばれたら普通に考えてただでは済まない。
最も、注意する気にも否定する気にもなれないのもまた事実であった。
そんな彼らの態度に往人や聖も目をパチクリさせた。やがて往人が笑い出した。
全てに頑なになりきっていた自分がアホらしい、と往人は思った。
「分かった。治せるものなら治してくれ。連れて行ってやる」
そう言うと往人は歩き出した。
治せるとは思えなかったが、貴族と言う身分の者が異端者と蔑む者の身を案じていると言う事実は彼にとっては びっくり半分嬉しさ半分であった。
(きっとこいつなら観鈴とも気が合うんだろうな)
往人はそう思った。
そう思えば、さっきの戦いで負けた悔しさは何処かに飛んでいた。
(死者を出さずに済んでよかった)
自分の意地で今まで自分達について来てくれた人間を殺す所であったのである。
もし、祐一達が武器をマトモに使い、本気で戦っていたら少なくとも、馬から落とされるだけで済んだ200人程度は重傷か、もしくは死んでいたのかもしれなかった。
今では、祐一の部下達が怪我人の手当てをしてくれている。
(こんな奴らもいたんだな・・・)
正直そう思った。
往人が笑いかけてくるのを見て、祐一達は互いに頷くと往人に黙ってついて行った。
やがて、一軒の家の前に着くと、往人は家の中に向かって声をかける。
すると、家の中から一人の女性が現れた。
「居候・・・大丈夫やったんか??!!」
往人の顔を見るや、その女性は往人の方に駆け寄ってくる。
彼女の下にも自分達が負けたことくらいは伝わっているのである。
「ああ、完敗だ。だけど、死者もいないし、とりあえずは良かったんだと思う」
往人はそういい、彼女は神尾晴子と言って、例の病人の母親だ。と紹介した。
祐一達は名前を名乗ると軽くお辞儀をする。
「あんたが貴族なぁ・・・そうは見えんわ」
きっぱりと一言。祐一は微妙にショックを受ける。
往人が慌てて取り成す。彼の家の家主は物事を考えない人であると祐一達にこっそり耳打ちした。・・・・が
「聞こえてるで?いそ〜ろ〜?」
すっかり聞こえていることを知ると慌てて頭を下げた。
つまりは頭の上がらない相手らしかった。
「それで、その公爵代理様がこんな所になんのようなん?」
晴子は、数分前に往人が取ったような態度を取る。
自分の娘を寄越せと言っている団体の仲間が来たのだからその反応は妥当と言えるだろう。
が、晴子は「またか・・・」と言う風な祐一達の顔を見て、少し落ち着いた。
つまり、往人や誰かが同じようなことを言って、それで尚連れて来ているという事である。
考えても見れば、連れに来る人間を往人がここまで案内するわけがない。
「とりあえず、観鈴の病気を見てくれるそうだ」
往人は説明する。彼には、観鈴の病気は死ぬまで治らないものと知っていたし、晴子も、彼女の病気が普通のものではないことくらい気づいている。
それでも、晴子はその言葉に表情を明るくさせる。
往人と同じように、自分の娘のことを、全く無関係な者が心配してくれるのは嬉しかった。
晴子は黙って、家の中を顎で示した。
「あれ?往人さん帰ったんだ」
往人に続いて祐一、大輔、晴子が入っていくと金色の髪の少女がベットに横になりながら嬉しそうに微笑んだ。
そして、祐一と大輔を見ると
「こんにちわっ」
と笑いかけながら元気にいい、
「そっちの人たちは往人さんのお友達の方ですか?」とまた元気に聞いた。
その少女の見た目の年に合わない口調の子供らしさに多少の驚きを感じながらも 祐一は黙って頷いて「俺は祐一と言う」とだけ言う。横に座る大輔もただ「大輔だ」とだけ言った。
とりあえず、今は自分達の立場を明かさない方がいいと思ったからである。
観鈴は嬉しそうに「祐一さんに大輔さん・・・」と呟いている。
こいつも微妙に人のリズムを崩すタイプの人間か・・・と二人で苦笑する。
同じような気分を昨日味わっていた。
だから巻き込まれないうちにとりあえず用件を先ずすませてしまおうと祐一は思った。
祐一は観鈴の方を見る。
基本的に、大抵の病気なら見るだけで祐一には、それがどのような原因のものかはわかる。
見るだけで、観鈴の体の不安定な気が良く分かった。
(これは・・・・栞の時と同じ・・・・)
祐一は愕然とし、そして、落ち着いた声で告げる。
「・・・すみませんが、晴子さん、一度出て頂けないでしょうか?」と。
そう言われて、「何でや!!」と抗議する様子を見せた晴子だったが、往人にも頼まれ、一度家から出て行く。
「往人・・・お前と観鈴さんはこの『病気』のことを分かっているんだな・・・」
死の呪い。
それは死ぬまで解けることのない病気である。
観鈴は「『さん』だなんて・・・観鈴でいいですよ」と違う所であたふたと慌てている。
そう言う問題ではないだろうと祐一は心の中で軽く突っ込みを入れた。
「やっぱり・・・分かるのか?」
往人は驚いた様子で尋ねる。
これを呪いと気づいたのは誰もいなかった。
「よりによって死の呪いか・・・」
祐一はしばらく考え込み、やがて小さく横に向かって呟いた「おじさん、2割30分でぎりぎりなんですが・・・」と
そして祐一は大輔の方を向いて、申し訳なさそうな顔をする。
この方法を使えば、大輔が死ぬほどきつい時間をすごす羽目になることが分かっていた。
だから、本当ならやりたくないものの、それ以外この少女を救う手立てはないのである。
死の呪いとはそれだけの呪いであった。
「リインカーネーションの禁術か?」
顔を強張らせて大輔が聞く。
実際に、前回祐一がこの禁術を用いたのは慎一がまだ元気で二人ががりで補充分を支えていられるころの話であった。
リインカーネーションの禁術。禁術とは、名前の通り、強力すぎる為に使用を禁止されている魔法である。
ちなみに、術法は、下から、初級術法、上級術法、最上級術法、禁術と名前が分かれているが、それは人間の決めた区分けである。
相沢家、つまり神の世界においては、初級術法と、上級術法の間に中級術法と言うレベルが加えられて、スライドされる。
つまり、人間にとっての上級は彼らにとっての中級。人間にとっての禁術は祐一達にとっては最上級術法にすぎない。
そして、そのさらに上にあるのが、祐一達にとっての『禁術』である。
大輔と祐一の会話に往人が反応する。
「おい!!もしかして観鈴をなんとか出来るのか?」
今にも掴み掛かりそうな勢いでまくし立てる。
「やることは出来るんだが・・・おじさん、大丈夫でしょうか?」
その言葉に大輔も苦笑する。
(今更俺の意見をどうこう言ってもお前が止まる訳ねぇだろうが・・・)と。
「どうせ、無理といってもお前はやるんだろう?・・・俺は全力で支えてやるから思いっきりやってみろ」
だからそう答えた。
既に覚悟は決まっていた。
ちなみに、支えきれなくなった場合、まずいのは観鈴の命ではなく、結界の方である。
祐一は小さく笑って、すみませんと言った。
昔からこのおじさんには迷惑をかけているな・・・・と思った。ただ、その分いつもからかっているんだからおあいこだ、とも。
(まさか、もう一度こんなことをする羽目になるとはなぁ・・・)
祐一は背中の袋を手にとり、袋から中身を抜いていく。
グングニルの槍。実際に使うのは前回この術を使って以来だった。
槍の輝きに往人は目を細め、観鈴は目を輝かせた。
次の反応もまた違う。往人は「これが神槍・・・」と驚愕の目で見つめ
観鈴は「うわわ・・・凄いですねっ」とどうやらただ輝く槍に感動しているらしかった。
(あの佳乃と言う子に微妙に近い所があるなぁ・・・)
祐一の周りには、丁寧な貴族の女性しかいなかったので、こういう風に感動をすぐに言葉に表せる女性は珍しかった。
(名雪やあゆならこういう反応をするんだろうな・・・)とふと思う。
思えば、二人にほとんど挨拶もなしに出てきてしまった。とその時祐一は少し後悔した。
ただ、今それを後悔しても仕方がないか・・・と小さく微笑む。
「頼むぞ、グングニル」
祐一はそっと槍をなでた。
槍は言葉に答えるように輝きを増したかのように見えた。
さて・・・・・・・と。祐一はため息をつく。
既に、術法の用意は出来ていた。
後は、魔力を取り戻し、術をかけるだけである。
「おじさん、準備は大丈夫か?」
今回の計画の肝は大輔が持つかどうかである。
もたなくても、観鈴に関する結果自体は変わらないのだが、間違いなく結界が破裂する。
それだけはあってはならないことであった。
「祐一。俺のことは心配するな。しっかり30分持たせて見せる」
大輔は胸を叩いてそう述べた。
大輔にとっても不安であったが、祐一はもっと不安なはず。と大輔は配慮したのである。
「祐一、こっちも準備OKだ!!」
手伝いに立候補した往人が手を上げる。
実際、手伝いと言っても特にやることはないのだが、本人はどうしても観鈴の傍で出来るだけ見届けたいと言った。
祐一が出て行けと行ったらすぐに出て行くと約束はしている。
「よし・・・では、始めます。おじさん、よろしくお願いします」
祐一は一つ頭を下げる。
それを聞くと大輔は頷き、部屋の隅に座り、両手を合わせて念を込め始めた。
ちなみに、往人には大輔が何をやっているのかは知らない。
「往人、外に出ていてくれ」
祐一が告げると往人は頷いて外に出る。
祐一はグングニルを両手で持つと、観鈴の前まで歩いて行く。
既に大輔の方の準備は完了していて、何時魔法力開放を行っても大丈夫な状態だった。
「じゃあおじさん、終った後の処理は言ったとおりに任せるのでお願いします」
祐一は、大輔の方を向くと、一言言って、その後ただ小さく微笑んだ。
「今神の名の下におき、送りし魔力を我が下に戻さん・・・・」
祐一は魔力回収のための詠唱を始める。
実際これを使ったことは今までの人生で10回程度しかなかった。
「・・・・・我が名は相沢祐一。我が魔力よ。今こそその力解き放たん!!」
祐一が言葉を発しきるやいなや、祐一の上から光が落ちてくる。
観鈴が歓声を上げる。それは何処か幻想的な光景であった。
同時に大輔も魔力放出を始めた。
祐一はタイミングを計る。あまり魔法力を戻しすぎると大輔の負担が増える。
必要ギリギリの魔法力で止めなければいけない。
(そろそろ・・・・・・か)
タイミングを見計らって止める。
これで術に使う魔法力は十分である。
「観鈴、ちょっと痛いけど我慢してくれよ」
祐一はそう笑いながら話す。
痛いと暴れられてしまっては呪文が乱れて危ないことに成りかねない。
観鈴は「にはは・・・・・分かった」と言って笑い返した。
ちょっと槍で体を刺すことは最初に言ってある。
そして、祐一は大輔のように座り込み、両手を合わせた。
昔、一弥に見せたようも詠唱なしでも祐一は使うことが出来るのだが、詠唱の力を借りないと魔法力が 足りないのである。
詠唱なしで術を使うのには、通常の2倍程度の魔法力が必要となるのである。
「我が内に眠る光を解き放ち・・・」
ちなみに、魔術の詠唱と言うものについて、特に決められた言葉はない。
つまり、言ってしまえば、自分で勝手に作って大丈夫なのである。
ただ、詠唱の言葉によるイメージを用いることで、体の中の魔法力をその術に合うように組替えていく作業が 行われる為、基本的な詠唱の文言は一応存在するし、自分自身で詠唱を組み立てられる者はよほどの実力者のみである。
また、詠唱があっていても、その術を操れるかどうかは本人の才覚や努力による所が大きく、詠唱さえ覚えれば 使えると言うわけではない。
「・・・・・・・・」
祐一が詠唱をすればするほど、家の中を光が満たして行く。
やがて、その光は、外に漏れ出して行った。
やがて、その光は家全体から漏れ、周りにいるものには家が光り輝いているように見える。
「光が・・・なんやこれは・・・・・?」
家の各隙間から漏れ出してくる光に、外にいる晴子、往人は観鈴の治療が始まったことを知る。
「・・・・・・・・」
はや十数分、祐一の詠唱も佳境に入ってくる。
一方、大輔はそろそろ疲れが出てくる頃であった。
全力での魔力放出などと言うことを数十分持続させることなんて普通は不可能である。
一般的に例えれば、全力で走り続けているような物なのである。
(くそ・・・・・でもまだまだ・・・)
ある意味、彼の役目は祐一より辛いのであった。
ただ、彼は祐一の為に耐える。
祐一を結界を放棄した相沢だと言わせるわけにはいかないと彼は思っていた。
そして20分過ぎ、祐一の長い詠唱も終わりを迎える。
「我が光の神、オーディンの名の下に・・・光よ、我が手に集え!!」
『集え』の単語と共に、祐一の手が光り輝く。
その光は、直視出来ないほどの強い光を放っていた。この光が、祐一の20分の詠唱の結果である。
(いくぞ・・・・)
祐一はグングニルを両手で構えて、観鈴の胸に少し突き刺す。
観鈴が軽く呻き声を上げた。
普通、長い槍が自分の上に降りてきたら悲鳴を上げて逃げ出すものだが、観鈴は何一つ言わず、それを受け入れた。
観鈴は『強い子』だったのである。
そして、祐一は心臓に刃の先を触れさせた所で手を止める。
人間の生命の中心は心臓。心臓から浄化を始めさせるのが一番いい方法である。
「光よ、彼の者に力を与えん!!」
言葉と共に、祐一の手からグングニルを通して観鈴の体内に光が入り込んでいく。
それが全て入り終わると祐一はゆっくりと槍を引き抜いた。
血が出てきたところを布で抑える。
祐一は今にも倒れそうな脱力感を体に感じた。
禁術を使う代償のようなものである。
万全の状態で使えば、何ともないのだが、魔法力ぎりぎりの状態で使うと言うことで、祐一にとっては覚悟していたことだ。
(まだ・・・結界に魔法力を戻さないと・・・)
気力で体を持ち直す。
ここで倒れたら、頑張っているおじの努力が無駄になるのだからと祐一は気を取り直してもう一度詠唱を始めた。
「今神の名の下に置いて我が魔力を持って結界となさん・・・・」
やばいと思った。想像以上に体が重い。横目で見ると、流石におじも限界なように思えた。
祐一は、必死に残りの言葉をつむぐ。
普通の術と違い、結界に魔力を送り込むことは契約と言う形態のため、絶対決められた文言を言い切らなければいけない。
「我が・・・・・名は・・・・・あいざ・・・わ・・・・・祐一・・・・。わがまりょく・・・・・よ・・・・・いまこそ集いて結界となれ!!」
最後に無理やり声を張り上げて詠唱を終える。
祐一は大輔の方を向いて親指を立てると、ゆっくりその場に崩れ落ちていった。
大輔は肩で息をしながら立ち上がると、家の扉を開ける。
待ち構えていた往人と晴子が彼のもとに駆け寄ってくる。
大輔は「悪いんだが祐一のことを頼む・・・」とだけ言うと倒れた。
疲れきっているのは彼も同じであった。
不思議と、大輔にも祐一にも、この連中が自分達が倒れている間にどうにかするのではないか?と言う危機感は 少しもなかった。
倒れた大輔を往人は即座に抱きかかえると家の中に入っていく。
早く休ませないと・・・・・と往人は思った。
何故だか、往人や晴子にも、観鈴は絶対治っていると言う確信が生まれていた。
二人とも(この二人は信用出切る)と思い始めていたからであった。
一方、聖の家では佳乃がようやく目を覚ましていた。
「あれぇ?お姉ちゃん?」
旅立ったはずの自分が自宅に帰っているのに気づき佳乃は首を捻る。
昨日は確か、森で出会った少年と、その仲間さんたちと一緒にいたはずであった。
「うむむ・・・」
さらに首を捻って考え込む佳乃に見かねて聖が横から口を出す。
「昨日佳乃が会ったって言う人たちが佳乃をここまで連れてきてくれたんだぞ」と。
「え〜〜??だって、私は『悪者の手先が来ないように王都に行くんだよぉ』ってちゃんと言ったよ?」
その何気ない一言に聖は頭を抱える。
(ちょっとまて・・・・・つまり佳乃は相沢公爵代理や、白騎士団の前で面と向かって『悪者の手先』なんてことを言ったのか?)
最も、それで気分を害して自分達にどうこうしようとするのなら今までにする機会はあったし、病人を治してくれないだろうと 聖は思った。
とりあえず、佳乃には、悪い人達が来なくなって、代わりに来た人が佳乃の会った人達だ。と説明する。
共に、来た人達が観鈴の体を治したと聞くと、佳乃は嬉しそうに「ほんと??!!」と聖に詰め寄る。
そして、聖が頷くと、佳乃は観鈴の家に向かって駆けて行った。
「佳乃は・・・相沢公爵代理の名前を知ってるんだろうか・・・??」
聖の呟きを聞く者はいなかった。
聖はゆっくりと佳乃の後を追って歩き出す。
相沢公爵代理や
今後のことについて話し合わないといけないから来て欲しいと言われていた。
あくまで自分達は降伏した立場なので、相手の要求を受け入れる義務がある。
勿論、そんなに酷いことを要求されるとは思えなかったが、聖は自分の命程度のことは既に覚悟していた。
普通に考えて、要求を入れるにしても指導者である自分が無事でいられるわけがないのが常であった。
(佳乃の為なら自分の命なんて・・・)
それが、彼女の昔からの覚悟であった。