「さて・・・それでお前がどうしてここにいるのかな?」

祐一は深くため息をついた。

オーディンの城に帰ろうと城門の前で馬から降りたところにいきなり声をかけられたのである。

相手の横では見知った女性が苦笑いを浮かべて「まあまあ」と取り成している。

祐一とて、この二人に会うことが嫌なわけではもちろんない。むしろ、会えることは素直に嬉しいのだ。

しかし、この男を見ているとどうも祐一には隣国の未来が心配でならないのである。

「お前は王太子なのに何でこうも何度も何度もうちの国に現れる?浩平」

その男・・・折原浩平と、隣の女性・・・長森瑞佳は祐一の方を向いて小さく笑った。










十四話






「それで・・・今度は一体なんの用だ?」

流石に用もなく来たと言うのなら蹴りだしてやろうと思いながら聞いた。

「とりあえずは戦勝の祝いかな?それと、この前の返事も欲しかったしな」

浩平は、祐一が出陣したと言う知らせを聞いた段階で戦勝を理解していた。

自分が来た時に行っていた騎馬試験、それに白騎士団2000。

30000にも満たない脆弱な軍勢で勝てるわけがないことなど最初から分かっていたのである。

そして、この前の返事とは、相沢家と折原家の軍事同盟についてである。

「軍事同盟については結ぶ気はない」

祐一はそう言い切った。

折原家と結びつけば帝国の軍事力等怖くもなんともないのは事実である。

折原家の常備軍3万は帝国の禁軍とは比べ物にならない精強さを持っている。

祐一が結ぶと言ってしまえば単純戦力においても帝国を上回ることになるのである。

ただ、それだけにこの軍事同盟は世界を二つに分ける。相沢家は常に二つの家のバランスを取り続けているのだ。

そして、帝国を滅ぼせば祐一の友人達は皆命を失う。

名雪やあゆ達は助かるにしても、皇族の二人が助かるわけがないのである。

「そうは言っても・・・お前の国だけではいつまで持つか分からないだろう?」

浩平の言葉に瑞佳も心配そうに祐一を見る。瑞佳にとって小さい頃からのこの目の前の友人は弟のようなものだった。

確かに、彼の言うことは正しい。国はその気になれば10万程度なら軍勢を送り込むことが出来るのだ。

流石に10万に攻められては勝てるとは思いがたかった。

しかし、祐一は最後に勝たなくてもいいと思っている。

彼の目的は相沢家の勝利ではなく、異端者と呼ばれる者の社会的地位を確保したいと言うことである。

彼は慎一が死ねば結界が解けて、その大体5年後には魔族が復活することも知っている。

そうなった時に備えて異端者と言うものを他の者達と同じ位置まで上げておきたいのである。

しかし、それを浩平は知らない。あくまで、親友であり、兄弟のようなものである祐一を純粋に心配している。

いつも他人をからかうことにしか興味のないこと男が心から心配しているのである。

「浩平はいつも祐一のことを心配してるよ」

瑞佳が笑いながら祐一に告げた。

「なっ・・・俺は別に・・・ただ、祐一に何かあるとみさおが悲しむからな」

慌てて顔を赤らめながら浩平がそっぽを向いた。みさおとは彼のたった一人の妹であり、祐一の一つ下である。

最初祐一と浩平が会った時、みさおのことで大喧嘩をしたことを彼らは未だに覚えている。

祐一に笑顔で声をかけたみさおを祐一が冷たくあしらったのだ。その時祐一は軽い女性恐怖症だったのだが、みさおはそんなことは知らずに 泣き出した。そして、祐一と浩平が殴りあいを始めたのである。

その時、慎一が止めて、両方とも心の中の理由を全て吐き出して、それ以来二人はまるで兄弟のように仲良くしていた。

祐一にとってある意味この二人は一番心を許せる相手でもある。

「まぁ、とにかく悪いけど同盟を結ぶ気はないぞ」

祐一はもう一度きっぱりと告げた。

浩平はそれ以上は薦めなかった。彼としては、祐一が帝国の主になって欲しいとすら考えている。

公爵という位置の祐一より、同じ王と言う立場の祐一と対等に付き合いたいのである。

彼の中で祐一の未来は帝国の主か、自分の義弟と決まっていた。みさおを付けてしまえば祐一はそう言う立場になる。

もっとも、これは祐一に言ったことは当然ない。彼はそういう話を祐一が嫌がることを知っているし、それが自分の都合であるのだから尚更である。

しかし、祐一のそのような野望などはない。彼の望みはあくまで異端者を普通の人間と変わらない位置に押し上げることである。

「まぁ・・・お前ならそういうとは思っていたんだがな」

浩平は苦笑した。祐一が自分と手を結んで帝国に立ち向かうと言う光景は想像出来なかった。

思わずクスッと瑞佳と顔を見合わせて笑った。

そして、相沢と倉田の争いには手を出さないことを祐一に約束した。それと共に、相沢公爵領から逃げてくる人間は全員厚く遇するとも。

祐一は笑ってありがとうと答えた。





3人は並んで城の中を歩く。城の中にいるものも3人を見ると敬礼する。

そして、中庭に差し掛かろうとしたとき3人は強い魔力の高まりを感じた。

浩平も瑞佳もいっぱしの魔術師である。魔力の高まり程度近くによれば感じることが出来た。

3人は慌てて中庭に踊り出る。白騎士団や大輔が出陣している以上、ここの城にこれだけの魔力を出せる者はそうはいないはずなのである。

中庭に入ると火球が設置された的に向かって飛んでいくのが見えた。魔力の高まりに比べて余りにも小さい火球である。祐一は 誰が放った物なのかすぐにわかった。

祐一は自分の傍にいる少女が魔力を抑える為の道具を装着しているのを知っていたのである。

だから、撃った人間が「あ〜・・・祐一君だぁ」と言いながら走り寄る前に正体に気付いていた。

補佐としてついている佳乃である。

佳乃は近くまで走り寄ると祐一をジッと見たあと瑞佳をジッと見た。

前回祐一に馬に乗せてもらった時に会った人である。余りいい感情は持っていなかった。

瑞佳は困ったように苦笑する。彼女には視線の意味が良く分かっていた。だからとりあえず取り成してくれるように祐一に目で問い掛ける。

祐一はその視線を紹介して欲しいと言うようなものだと理解した。

「えっと・・・こいつは俺の補佐官をしてる霧島佳乃・・・で、この二人は俺の幼馴染で長森瑞佳と折原浩平だ」

祐一は瑞佳の視線を全く理解していなかった。慌てて瑞佳が手を振って否定した。

「私は長森瑞佳です。・・・えっと・・・祐一とは小さい頃からの友達で、私にとっては弟みたいな存在だから気にしないでね」

その言葉にようやく佳乃も笑顔になった。瑞佳に近寄ると自己紹介を始める。

男二人は完全に取り残された。祐一はとりあえず佳乃を瑞佳に任せて二人に気付かれないように歩き出した。浩平も続く。

行かなければいけないところが出来たのである。





「じいちゃん!!」

祐一は祖父の部屋に怒鳴り込んだ。納得の行く説明を聞きたかった。

浩平は黙って成り行きを見守ろうとしている。祐一がここまで感情を露にするのは珍しいことなので楽しもうと思った。

慎一も何食わぬ顔で「なんじゃ?騒々しい」等と言っている。

「どういうことだ??!!あれは!!」

まるで祐一がこう怒鳴り込んでくることが分かっていたかのように慎一は落ち着いた声で話し掛けた。

「どう言うことと言われても本人がやりたいと言うのだから仕方あるまい?」

今にも噛み付きそうな祐一と軽く受け流す慎一。対照的である。

「それにお前とて見たじゃろう?あの魔力はおそらく人間の中では最高の素質の持ち主の一人だろう・・・ お前も知っていたのではないか?」

祐一は黙って頷いた。観鈴も佳乃も強い魔力を持っていることなんて会った時から気付いていたし、 佳乃がバンダナによって魔力を封印しているのも知っていたのである。

それでも祐一は二人を戦場に立たせるなどと言うことをしたくなかった。だから、それについては何も言わなかったのである。

「本人がやりたいと言うのにお前や往人が止める理由はなかろう?少なくともわしには見つからん・・・まぁ・・・理由は微妙な物じゃったがな」

「その理由は聞いていいのか?」

横から興味を持ったと言うように浩平が口を出した。

「祐一が魔術を使えない代わりにそっちの方面で手助けしてあげたいそうじゃ」

その言葉に浩平が大爆笑する。彼は祐一の魔力の高さを知っている。浩平からすれば祐一が何故魔法力をこれだけさせているのかがずっと不思議なのである。

祐一はなんともいえない複雑な顔をした。

「やめさせてくる」

そう言って歩き出そうとする祐一の腕を浩平が掴んだ。

「お前・・・俺が瑞佳を同じ理由で止めようとした時はこう言ったよな?『瑞佳さんは浩平を守りたいんだろ?だったら好きにやらせてあげたほうが いいんじゃないか?』と。だから俺も同じ事言ってやろう」

祐一の足が止まる。確かに、昔瑞佳が慎一に浩平と一緒に魔術の使い方を教えて欲しいと言いに来た時、嫌がる浩平を祐一はそう言って説得した。

結果、瑞佳と浩平はいまや二人で折原家の常備軍の中核である魔術部隊のさらに中核を占める魔術師になっている。

「しかし・・・あのバンダナは聖さんが着けたものなんだろう?なら、聖さんの許しを得なくちゃ外せないんじゃないのか?」

必死に理論を組み立てて反論する・・・が、それこそが慎一の待っていた答えである。

つまりは、それなら聖を納得させれば祐一も納得すると言うことになるのである。

慎一はニヤリと笑った。





項垂れて、からかわれながら祐一は浩平と中庭に戻ると、また強い魔力の高まりを感じる。

魔力の組み立て方で、祐一はそれが誰の物かすぐに分かった。

「瑞佳さんの魔術か・・・どれだけ上達したんだ?浩平」

瑞佳は浩平よりも魔術では優れていると言える。浩平はいわゆるオールラウンダーなので、魔術だけでは瑞佳には及ばないと言うことは 誰もが認めることであった。

「そうだな・・・最上級術法を使えるようになった程度か?必死に禁術を勉強しているが・・・教える者がいないだけに難しいみたいだ」

禁術を習得しようとするようなレベル・・・そう浩平が言うのも分かると思った。今瑞佳の組み立てている魔術はブレイズだが、その組み立てを見るだけで相当なレベルの魔術師であることが分かるのだ。

少しすると瑞佳の手から炎が舞い上がる。ブレイズの術法。空高く舞い上がる炎に観鈴と佳乃が歓声を上げた。

眺めている浩平と祐一に気付き、瑞佳が恥ずかしそうに手を振った。見られるのはやはり少し恥ずかしいらしい。

周りでは観鈴と佳乃が呆けたように炎を見つめていた。

「祐一、どうだった?」

近づいて祐一に聞く瑞佳。彼女にとっては祐一は魔術においての目標である。

祐一は瑞佳に笑いかけて「また腕を上げましたね」と笑った。隣国の魔道デコボココンビの噂は世界中に 鳴り響いているのだ。瑞佳は今や佐祐理、秋子らと並んで世界で最も注目されている女性魔術師の一人である。

瑞佳は「まだまだ祐一には適わないけどね」と言って笑った。

「祐一さん、私もこの人みたいになれるかな?」

わくわくと観鈴が祐一の袖を引いた。

観鈴の魔力はかなり高い。瑞佳にも劣らないほどである。つまり、努力さえすればこういう風になれる可能性はある・・・ そう祐一は答えた。

観鈴の顔が笑いに満ちた。

そしてもう一つの視線。気がつくと佳乃が「私はどうなのかなぁ・・・??」といいたげな視線を祐一に 浴びせていた。

佳乃は自分が観鈴よりずっと才能がないと思っている。何しろ、同じフレイムバレットを撃っても威力が 全く違うのだ。魔力の大きさは訓練しだいで上達はするものの、生まれつきに寄る所が最も大きい。

それを考えると佳乃が自分にがっかりするのも無理がないように祐一には思えた。

最も、ここにいる観鈴と佳乃以外の3人は佳乃の魔力の高さと、それを発揮できない理由に気付いている。

しかし、佳乃は知らない。だから悔しいのである。

「ねぇ・・・佳乃ちゃんと観鈴ちゃん・・・だよね?・・・よかったら私としばらく一緒に練習しないかな? 私も浩平もあと10日くらいはここにいると思うんだよ」

目に見えてがっかりしている佳乃と同様に目に見えて不機嫌な祐一。とりあえず場を和ませようと瑞佳が提案した。

二人共その言葉を聞き、顔に歓喜の表情を表す。二人に教えてくれる者は誰もいないのだ。

慎一も、最初に基礎を教えてくれただけでその後は基本的に放置している。

だが、瑞佳はその言葉に祐一がさらに不機嫌になるのを見て大きくため息をついた。

(やっぱり浩平と祐一はよく似てるよ・・・)

今の祐一の態度は小さい頃自分が魔術を習いたいと言った時の浩平と全く同じ物だと思って彼女は笑った。

(それにしても・・・祐一にはその気がないのに、祐一の周りの女の子は皆ライバル・・・皆大変だよ)

瑞佳はもう一つため息をついて苦笑した。





「まったく・・・祐一、少し落ち着け」

瑞佳に魔術を教わり始めた二人を見るとすぐに祐一はその場を出て行った。それを見て慌てて浩平が追いかけた。

「別に俺は落ち着いている」

祐一が肩を掴んだ手を払いのけるとスタスタと歩いていった。

(全く・・・軍を動かしている時、国政に携わっている時、戦略を立てているときなんかは完全に大人なのにこう言うのはガキなんだよなぁ)

浩平は槍の使い方や魔術の制御、構成の仕方、しかも軍の動かし方までも祐一のものをお手本に使っているくらいだった。

下手な大人に教わるより相沢家の人間に教わる方が比べ物にならないくらい効果があるのである。

公人としては大人でありながら私人としては子供。それが浩平から見た祐一だった。

「俺だって瑞佳が魔術を勉強すると言った時反対したがな・・・だが、結局あの女の子達がやりたがっている以上仕方ないだろうが」

祐一にも無論そんなことは分かっている。分かっていても人を殺す感覚等と言う物はあの少女達に味合わせたくないと思っているのである。

人を殺すと言うことを実践してしまったら二度と元には戻れない。それは祐一が何度となく見てきたことなのである。

祐一は人殺しだ。それも世界で有数の人殺しだろう。

彼が直接手にかけた人間だけで既に数十、数百。彼の意思に寄る物ということで考えればその数は数えられる物ではない。

それだからこそその痛みが分かる。最初に人を殺した時の感覚まで彼は鮮明に覚えているのだ。

「浩平・・・お前だったらどうする?」

そう言って振り向いた祐一の顔は実際よりも若く見えた。そのことに浩平は苦笑した。

と、同時に頼られていることを少し嬉しくも思った。

「俺だったら・・・か。」

しかし浩平にも答えなんかなかった。あろうはずがないのである。

浩平も学ばせるべきか?と聞かれたら否と答えるのだが、結局前にも言ったとおり当事者の意思が決まっている以上第三者が何を言っても無駄であった。

しかし、浩平には祐一の気持ちも良く分かった。だからこそ何も答えられないのだ。

一つ自嘲するように笑うと浩平は立てかけてある棒を2本取り、1本を祐一に向かって放り投げた。

「ま、考えこんでも答えは出ないだろうし少し体を動かしてみないか?」

と言いながら祐一に向かって笑いかける。

「手加減抜きでいいのか?」

浩平の意図を汲み取った祐一が笑い返した後言う。浩平は「当たり前だ」と返した。

そしてまた顔を見合わせてひとしきり笑い、やがて同時に少しづつ距離を取ると棒を構えた。

数瞬後二人の影が急速に近づいていった。





中庭で特訓を終えた瑞佳が近づいてくる二つの人影に気付く。

遠めにも片方がよれよれになっていることを見ると瑞佳は(まただよ・・・)と思った。

「祐一・・・少しは手加減してあげてよ・・・」

瑞佳は二人が目の前に来るや否や呆れたように言った。

「祐一は俺の弟分だぞ??!!弟に手加減なんかされてたまるか!!」

その声に瑞佳と祐一は顔を見合わせて苦笑した。

小さい頃から浩平は祐一に手加減されると本能的に察知して怒り狂う。

だから祐一は手加減せず本気でやるのだが、結果として今回も体中泥に塗れて、あちらこちらに打ち身や擦り傷を 作ったのである。

「今回こそは1本くらい取れると思ったんだがなぁ・・・」

悔しそうに呟く浩平。

今日は5本やって全敗だった。

押せば引かれ、引けば押し切られる。技でかわせばその上を行かれ、引きずり倒され突かれ叩かれて痛いものの、自分より強い者と戦う ことは最高の練習なのであった。それを知っているからこそ浩平は本気でやれというのかもしれない。

実際浩平は次はもっと上手くやれると言う自信を持った。

「どう、祐一。浩平も少しは強くなったのかな?」

瑞佳が祐一に笑いながら問い掛けた。瑞佳は浩平が常日頃から祐一相手にいつか一本取ってやると鍛錬しているのを知っている。

「浩平は強いですよ。そんなことは瑞佳さんが一番よく知っているでしょう?」

祐一は笑い返す。実際浩平は自分の叔父や祖父を除けば武術と言う観点ではおそらく最強の人間だと祐一は思っている。

その答えにもう一度瑞佳は笑った。

「それで・・・あいつらはどうでした?」

祐一は訓練を行っている二人を遠目に見つつ尋ねた。

今度は瑞佳がちょっと前の祐一の表情を取る。

「それこそ祐一が一番知っているんじゃないかな?」

くすくすと笑いながら話す瑞佳に祐一は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「実際、凄いセンスだよ。あの子達は。・・・私が嫉妬しちゃうくらいにね」

苦笑しながらそう続けた瑞佳に浩平は多少驚き、祐一は軽く頷いた。

実際瑞佳より才能があるか?と言ったらはっきりとどちらと答えることも出来ないが、二人共それに匹敵する 才能の持ち主であることは祐一にも分かっていた。そう、最初にあった時から。

「それで・・・祐一は結局どうすることにしたの?」

真顔に戻して瑞佳は聞く。ここにもう一度戻ってきたと言うことは彼なりに答えを出したと言うこと。

悩んだままであったらここには戻っては来ない。彼女の知る祐一はそういう人間である。

「分かってるよ。瑞佳さん」

祐一はただ小さく微笑んだ。

彼女達を人殺しの道具にしたくない。

戦場等と言う世界とは別の世界を生きて欲しい。

それは祐一の願いであって彼女達の願いではない。

祐一は浩平が数年前どうして瑞佳が魔術を習得することを認めたのかが分かった気がした。

浩平と槍を合わせていて分かったのだ。

結局何も言わずに槍を合わせるだけ。しかしそれが祐一にとって100の言葉よりもっと説得力のあるものになっていた。

浩平と瑞佳は顔を見合わせて笑う。

祐一は息を吸い込むと遠くで魔術の練習をしている二人に向かって声をあげる。

「二人共ちょっと来い!!」

その言葉に二人がびっくりしたように振りかえる。(祐一君(さん)が何時の間に?)と言う感じの顔で。

ただ、不思議そうな顔をしながらも二人は祐一の下へ駆け寄る。

やれやれと祐一は軽く頭を振る。何で周りがこの世界に踏み込ませないように必死になっているのにわざわざ自分から・・・と。

「本気でやる気なんだな?」

真剣に聞く。覚悟を持たないものに刃を与えることは出来ない。

二人は黙って頷いた。

そのまま数秒。浩平も瑞佳も何も言わず眺めている。

そしてふと祐一が顔に笑みを浮かべた。

二人の表情は『覚悟をしている』表情だと祐一は思った。覚悟が出来ているのなら何もいうことはない。

「異端者の魔道部隊でも作ってみるか」

だから祐一は二人にそう言って笑いかけた。

往人達の軍にもスノウのような魔術部隊が必要だと思っていたのだ。この二人なら魔力だけなら纏めとして申し分ない。

「ただし、二人共保護者の許可得るまで却下だからな」

二人は黙って・・・しかしさっきとはうってかわってとても嬉しそうに頷いた。

(この部隊を作り上げることが俺の公爵としての最初で最後の仕事・・・か)

祐一は胸の中でそう呟いた。