第一話








雪が降っている冬の日、馬が一頭、道を走っていく。

馬に乗っているのは少年。その背中には長い棒のようなものを布の袋に入れて背負っている。

門が見える。

大きな門、倉田帝国、首都のヴァルキリアの門。

少年は馬から下りると馬を手で引きながら門を潜ろうとする。

「さて・・・と・・・迎えは・・・・」辺りを見渡す。

が、それらしい人物はいない。

聞いていた話だと、従兄弟の少女が門まで迎えに来てくれるはずだった。

「寒いな・・・」

少年は仕方なく、ベンチに座る。

通行証もなく、身分を保証出来るものもいない。こんな状況では門の中に入ることは出来なかった。







「遅いなぁ・・・・・・・・」

呟きが漏れる。ベンチに座り続けてそろそろ2時間。普段雪の中で生活していないことを考えればよく我慢しているともいえるような状況だった。

少年の名前は相沢祐一、相沢公国の公子である。

ただ、今の彼をそう言って信じるものなどいないだろう。

雪に埋もれて凍死しそうに見える人間に向かって「彼は公子です」と言って信じるものなんてまずいない。

「遅い・・・」

再びそう呟くと、後ろで雪を踏む音が聞こえた。

「雪、積もってるよ。」

振り向く。同時に祐一の肩と頭から雪が落ちた。かなり積もっていたらしい。

そこには少女が立っていた。

蒼い髪、大きく、黒い瞳。

それは彼の記憶の中の従兄弟の少女と同じ物だった。

「2時間も待ったからな」

祐一が立ち上がるとさらに雪が落ちる。

「え・・?今何時?」

祐一は黙って街頭の時計に親指を向けた。

「わぁ・・・・びっくり。まだ2時くらいかと思ってたよ。」

祐一は思った。こいつは2時でも1時間の遅刻と言うことを知っているのだろうか?と。

少女は祐一のそんな気持ちを知るもなく、にっこり笑って言った。

「祐一、久しぶりだね。」と。

「久しぶりも何もこの前あってからまだ3年しか経ってないじゃないか。」

「3年は私にとっては十分長い時間だったんだよ。」

少女は不満そうにそう言った。

「ねぇ、私の名前まだ覚えてる?」

「流石に従兄弟の名前くらい覚えてるぞ。お前こそ俺の名前を覚えているのか?」

少女はにっこり笑って答えた。

「もちろんだよ。じゃあ、せ〜ので一緒に言おう。」

お互い顔を見合わせて笑うと、二人とも息を吸い込んだ。

「せ〜の」

「祐一」「花子」

とたんに少女の顔が不満げなそれに変わる。

「違うよ〜」

少女は不満そうだった。

「じゃあ太郎」

「私女の子・・・・」

祐一は立てかけておいた棒状の包みを持ち、体の雪を払った。

「そろそろここでじっとしているのも限界かもしれないな・・・・」

「名前・・・」

「さて、そろそろ行くか。」

「名前・・・・・」

少女は不満そうに呟く。

祐一は歩き出しながら、後ろを振り向き言った。

「おい、そろそろ行くぞ、名雪」

たちまち少女の顔に笑顔が戻った。







「それで、とりあえず俺は何処に行くことになるんだ?」

歩きながら祐一が聞く。実際、彼が聞いているのは急に聖都までこいと言うことと、名雪が門まで迎えに来ると言う二つだけだった。

「えっと・・・・・・とりあえず今日は私の家に連れてくるようにおかあさんに言われてるよ」

名雪の家・・・・水瀬侯爵家。

祐一にとっては今の侯爵、水瀬秋子は叔母にあたる。

祐一の母は水瀬家から嫁いできている。最も、祐一がまだ小さい頃に両親共に亡くなっているので祐一は顔すら覚えては居ない。

相沢家の結婚は大抵政略結婚のようなものになるが、両親は恋愛結婚だと祐一は聞いていた。

だから、彼にとって水瀬の家は不快感を感じさせる家ではなかった。

実際、叔母の秋子は祐一のことを実の子供のように暖かく接していたし、名雪との結婚を迫ったこともなかった。

祐一にとっては数少ない「心を許せる相手」であった。

「分かった。それじゃ案内してもらおうかな」

だから、祐一は笑顔でそう答えた。







「ついたよ〜」

やがて、ある程度大きな屋敷の前に着くと名雪は手を翳して家を示す。

普通の家と比べたら大きな家だが、大きすぎない家。

どちらかと言えば、彼らが歩いている途中にあった適当な貴族の屋敷の方が大きいかもしれない。

それは、水瀬の家の土地の治め方の問題であった。現侯爵の水瀬秋子は自分の領地の税を、ぎりぎりまで下げて、領民の生活を苦しめないようにしていた。

当然、自分自身の暮らしは他の貴族のように豪華ではないが、領民に慕われ、また、本人の国での一軍の指揮官としての人望も厚い。

現国王の倉田一は外交においては評判の悪い王ではあるが、内政においては評判がいい。

実際に、ヴァルキリアは栄えていて、世界最大の都市としての名に恥じない町並みを誇っている。

「変わらないな・・・・・・この家も。」

彼が最後にここに来たのは3年前。その頃から全く変わらない光景に思わず祐一は目を細めた。

「お母さんも待ってるから早くはいろ。」

名雪の声も何処か弾んでいる。やっぱり彼女にとっても従兄弟の少年と一緒に自分の家に帰れるのは嬉しいことらしかった。

「ただいま〜。お母さん、祐一連れてきたよ〜」

「お邪魔します」

祐一も続いて屋敷の中に足を踏み入れる。

「あらあら・・・・・祐一さんいらっしゃい」

「秋子さん、お久しぶりです。今日の所はご面倒をかけさせて頂きます」

祐一はしっかりとした態度で話す。前回と違い、祐一は数年間公爵代理を勤めている。

それは、秋子に自分の甥の成長を感じさせると共に、寂しさも感じさせた。

(前回来たときはまだ子供だったのに祐一さんも大きくなったのね・・・・もう、昔のように可愛がることも出来ないのかしら・・・・・・・)

祐一の母親、それが秋子の姉だったのだが・・・は、祐一が小さい頃に亡くなった。

秋子は小さい頃から姉を慕っていたので、将来は姉や、姉の夫の下で侯爵家を守り立てて行こうと小さい頃から考えていた。

それが、姉が突然公爵家に嫁いだので、彼女に公子の座が回ってきた。

当時20を過ぎたばかりの自分でさえ自らの夫がいても苦労した。家の主になると言うことは言葉以上に大変なことなのである。

(祐一さんは・・・・・まだ17なのに、たった一人で公爵家を支えている・・・)

それを考えると彼がこのように大人に成長したのも分かるような気がした。

実際問題、今現在名雪に侯爵の座を渡してもとても支えきれるとは思えない。

と共に、秋子は何か胸が痛むのを感じた。この少年は、明日呼ばれた理由を聞いたときどう思うのだろうか・・・?と。

祐一に課せられる仕事。秋子は王に自分がやると申し出た。

しかし、王は無理やり相沢家にやらせることを強行した。

王は相沢家を嫌っていた。異端者と言う存在を庇う相沢と言う名前は彼にとっては敵だった。

ただ、王の子供達は相沢家のことを好きだった。

一弥皇太子と佐祐理皇女。秋子はこの二人の教師だったが、彼女から見てもこの二人は「傑物」だった。

思えば、祐一の同世代の高位の貴族には優秀な存在がたくさんいた。久瀬家の公子や美坂家の公子も優秀な人材でありながら、 誠実な人柄で、好感の持てる人達。

(名雪やあゆちゃんもこの人達と一緒に国を守り立てていけるかしらね・・・)

楽しい想像だった。自分の娘達と同じ世代に優秀な存在がたくさんいて、名雪や自分の養女・・・あゆ・・・はその人達と一緒に国をさらに発展させる。

異端者に対する王や貴族達の偏見や迫害は自分達が言っても無駄だった。

そして、貴族の中の貴族、相沢家の度重なる忠告は帝国と公国の亀裂を深めさせただけ。

異端者の蜂起は各地で起こり、かなり大きなものになっているが、彼女にとってそれは怒りの対象ではなかった。

悪いのは自分達貴族。

それを理解しながらも蜂起には立ち向かわなければいけない。

(でも一弥さん達なら・・・)

それは彼女にとっての希望だった。







「ところで・・・・秋子さん、あゆの奴は何処に行ったんです?いつもだったら真っ先に走ってきそうなのに・・・・」

玄関で2〜3分会話をしているとふと祐一が気がついたように言う。

名雪と秋子は顔を見合わせて笑う。

本人から口止めされている以上言わないのがお約束。二人は口に人差し指をあて、笑いながら「ないしょだよ(ですよ)」と言った。

「それより祐一さん、長いたびで疲れているでしょうし、とりあえずお風呂にでも入って疲れを取って来てはいかがでしょうか?その後で食事にしましょう。色々つもるお話もあるでしょうし」

「ええ、分かりました。それでは失礼させて頂きますね」

祐一も笑いながら答える。

笑いながら言うのだから悪い状況ではないのだろう。と思った。

(この感じも久しぶりだな・・・・)

ここ数年公爵代理として気の休まる暇のなかった祐一にとってそれは楽しいと思える感じだった。







風呂から出ると、祐一は初老の女性に食堂まで案内される。聞いた話だと、軽く歓迎会のようなものをするらしい。

(そういえば・・・一弥達は元気かな・・・)

自分の弟分の顔を祐一は思い出していた。

自分の責任の大きさと周りの期待に押しつぶされそうになっていた少年。そして、弟をしっかりした人間に育てることだけを考えて、 それが故に亀裂を作りかけていた少女。

(まぁ、佐祐理さんもいるし大丈夫かな?)

次回会う時には祐一兄さんに負けないよう強くなっています。と背伸びして言っていた少年・・・・と言っても祐一より一つ年下なだけだが、祐一には彼が2〜3歳くらい下に見えた・・・とその姉、佐祐理。

二人とも立場上は皇太子と皇女ではあるが、そんなことを感じさせないような親しみのもてる人柄であることを祐一は知っている。

(どちらにしても、明日になれば二人や、それに北川や香里、栞にも久瀬にも会える・・・か。忙しくなりそうだ。)

それがどのような感情なのか、祐一には自分自身ではよく理解出来なかった。

「侯爵様、相沢公子様をご案内いたしました」

一人考えている間に食堂にたどり着いたらしい。と、祐一は扉を開けた。

「祐一さん(君)相沢(さん)(君)久しぶり(です)(ですね〜)!!」

とたんに聞こえる幾人もの声に祐一は目を白黒させる・・・見渡すと見覚えのある人間が何人も祐一の方を見て笑っていた。

「香里・・・栞・・・それに北川に・・・・それに一弥に佐祐理さんまで・・?」

さっき思い出していた友人がほとんど揃っていた。それに追加して「祐一く〜ん」等と叫びながら飛び込んでくる少女一人。

とりあえず祐一は飛び込んでくる人間を避け、不思議そうな目で全員を眺める。後ろで壁に激突する音とうめき声が聞こえた。

「やっぱり祐一さん驚いてますね」

「全く・・・せっかく来たのにそんな不思議そうな目をされるのは心外ね」

「今日祐一さんが来ることは秋子さんから聞いて知っていたんですよ〜。それで、祐一さんを驚かせようと思って」

3人とも笑いながら言う。最初から祐一のことを驚かせることは規定路線だったようだ。後ろでは名雪と秋子が「やったね。」等と言って顔を見合わせて笑っている。

「相沢ぁ、久しぶりだな。いや、相沢公爵代理様・・・か?」

笑いながら近づいてくる北川。北川家は代々禁軍の将軍を輩出している国でもトップクラスの武家である。

北川の言葉は、半分のからかいと、半分の哀れみが混じっているように聞こえた。この男は人を妬んでこういうことを言う人間ではない。

「なんなら代わってくれないか?こんな面倒な立場、誰かに代われるものならとっとと代わりたいんだがなぁ・・・」

「冗談じゃない。俺だって面倒はごめんさ」

お互い手を広げて笑う。二人とも、面倒が嫌いと言う本質的な所は似通っていた。

「駄目ですよ。祐一兄さんは数年後この国を背負ってもらわないといけないんですから」

笑いながらもう一人の男・・・・一弥が会話に入ってきた。慌てているように話しているのは、祐一が公子という座を本心から嫌がっていることを知っているからだろう。

「これ以上面倒を押し付けないでくれよ一弥。ただでさえ馬鹿な貴族から政略結婚の申し出ばっかりでうんざりしてるんだから」

心底嫌だという感じで祐一は言った。と共に、佐祐理や栞、名雪の顔は曇った・・・いや、曇ったように見えた。

「それに、それを本来言われるべきはお前だろ?俺は公子、お前は皇太子なんだから。国を支えるのはお前の役目だろうが」

「それはそうですけど・・・・でも、僕なんかより祐一兄さんがやった方が絶対上手く出来るのに・・・」

一弥の顔が沈む。昔からこの少年は自分を過小評価しすぎるんだよな・・・とは思っていたが、今になってもそれは変わっていなかった。

「駄目ですよ、一弥さん。いつも私が言っているでしょう。もっとあなたは自分に自信を持ってください」

テーブルで笑いながら見ていた秋子から一言。秋子は佐祐理や一弥の教師だ。

一弥も秋子の方を向いて苦笑いを浮かべながら頷く。昔は注意された時はもっと小さくなっていたのに・・・ちゃんと変わってるんだなぁ・・・と祐一は思った。

「さて、それでは皆さん、そろそろ食事にしましょう」

話に一段落ついたと見ると秋子が提案する。どうやら既に食事の支度は済んでいたらしい。

「うぐぅ・・・僕、仲間はずれ・・・・?」

祐一の後ろで一人うめいている少女がいた。







「まったく!!祐一君ったら酷いよ!!」

食事に入ってもその少女は怒っていた。

「そんなこと言っても・・・・突然体当たりをしてきたら普通避けるだろうが・・・なぁ?」

祐一が辺りを見渡すとその少女以外の全員は頷いた。

「う・・うぐぅ・・体当たりじゃないよ!!せっかくの再会だから抱きつこうとしたんだよ!!」

「まったく・・・再会を祝して抱きつこうとして壁に激突するなんて世界中でもボクくらいだよ!!」

「やったなあゆ。世界初だ」

「ぜんっぜん嬉しくないよ!!」

どうやら少女・・・あゆは本気で怒っているらしかった。

「まあまあ・・・あゆちゃんもそれくらいで、ね。・・・せっかくの頑張って作ったお料理なんですから祐一さんにおいしく食べて欲しいでしょう?」

いい加減秋子がとりなした。このままでは皆食事に入れない。

ただ、発言の一部、祐一に恐怖を感じさせる言葉があった。

「えっと・・・これは秋子さんが作ったわけではないんですか?」

祐一には記憶があった。

昔この家に来た時、あゆは祐一にクッキーを持ってきた。

初めて作ったと言って恥ずかしそうにしていたので、笑って一つ口に運んだ。そして、噛もうとして噛めずに歯を痛めた。

「私も一応手伝いましたけど、ほとんどあゆちゃんが一人で作ったんですよ。・・・大丈夫ですよ。あゆちゃんはあの時以来ずっと料理の練習をしていたんですから。」

どうやら秋子も碁石クッキーのことを思い出していたらしい。

そこまで言われると祐一も断れない。

どうやら、最初あゆについて内緒にしていたのはこういうことだったようだ。

実際、あゆは怒った顔をしてるように見えて、祐一が食べるのを不安そうに眺めていた。

スプーンをとり、先ず目の前にあるスープを口に含み味わう。そしてそのあとメインの皿にのる肉をナイフで切り、それも口に運び、ゆっくり味わう。

「うん。うまい!!」

それは正直な感想。

顔を見ても、それが本心からの言葉であることはあきらかだった。

あゆはそれを聞いて、本当に嬉しそうに笑った。

それは、今日初めての、そして、極上の笑顔だった。







食事も終わり、一段落すると応接間に祐一と秋子、一弥、佐祐理が残された。

香里達は今日は止まっていくという話で、栞や香理、名雪やあゆも残りたいと言っていたのだが、秋子が4人だけで話させて欲しいと言ってお願いした。

「それで・・・・一体、私が呼ばれたのはどんな理由なんでしょうか?水瀬侯爵様」

事が公事になると祐一の態度は公爵代理としてのそれに変わる。

(はぁ・・・この子は本当に私の半分も生きていない少年なのかしら・・・・)

秋子から見て、佐祐理なんかは同世代の他の人間と比べても、飛びぬけて大人のように見えるのだが、祐一の公人としてのそれを見ると佐祐理や一弥は年齢相応の子供に見えてしまう。

「祐一さんには多分予想出来ているのではないですか?」

半分探るように、半分確認するように言う。多分気づいていると言うのを秋子は確信していた。

「まぁ・・・私の家が王からどのように見られているのは理解出来ていますしね」

自嘲するように一言。

それだけで秋子は祐一が全て気がついていることが分かった。

一弥と佐祐理はそれを聞いて俯く。

自分達の父親が自分達の尊敬する人間や、その家族のことを疎ましく思っているのは知っていた。

「それで・・・・・祐一さんは引き受けるおつもりですか」

「命令なら・・・・・多分引き換えになるのは祖父の命ですし・・・・・ね」

「あの〜祐一さん?佐祐理にも分かるように説明して欲しいですよ〜」

会話の内容が見えずに佐祐理が口を挟む。

佐祐理や一弥は祐一を呼んだのは病気で寝込んでいる公爵の代わりに白騎士団の指揮をしてもらうと聞いていた。

「一弥にも分からないか・・・・・?」

祐一は一弥に話を振る。あまり自分からは言いたくない話だった。

「はい・・・。ごめんなさい、兄さん」

仕方なく、祐一は口を開いた。

「あくまで公爵家まで入ってくる情報しかないんだけどな・・・異端者の蜂起、あんまり戦況はよくないんだろう?」

少なくとも、祐一の所に入ってくる情報では、現地で税を徴収している貴族が追い払われ、最初にその地域の貴族が送り込んだ軍勢は敗退したとのことだった。

「それで、地方の領主が負けた以上それは地方ではなく、国の問題になる。分かるか?」

「当然・・・そうでしょうね。地方領主を破ってしまった以上国家に対する反逆になりますから」

「そうなると、国には軍勢を出す必要がある。今常備軍と言ったらどんな軍勢があるか?」

「えっと・・・・今常備軍は・・・・・禁軍(王家の直属の軍隊)が30000。それとは別に侯爵家が水瀬侯爵の軍勢が7000、倉田侯爵家と久瀬侯爵家はそれぞれ5000です。 それと、伯爵家も1000人程度はそれぞれ抱えているとは思いますが・・・」

「侯爵家と禁軍は王か、その一族の帯同、または特例としての許可がないと出撃出来ない。 伯爵家の中で最大クラスの斉藤伯爵家が敗れた以上伯爵家レベルで鎮圧出来るレベルでもない。と言うことは、もう一つだけの選択肢が残るだろ?」

ここまで言えば一弥だって佐祐理だって気がつく。確かに選択肢は一つしかない。

「祐一さんが、公爵代理としてホワイトナイツを指揮すると言うことですか?」

「そういうことだろうな。もちろん、公爵領に残している1900人も呼んで、2000人全軍で行けと言われるだろうな。聞いた話だと、今回の蜂起は規模が大きくて、1500人での蜂起と言う話だし、それにもしも、国軍が負ければ他の異端者達の集落も一気に蜂起するだろうから貴族達からしても今回の蜂起は死活問題。絶対負けるわけには行かないと言うこと。分かるか?」

「でも・・・そこまで大きい反乱なら、侯爵家や禁軍を出して鎮圧すればいいじゃないですか!秋子さんが軍を出してくれるなら僕や姉さんが帯同したっていいんだし・・・・」

一弥は秋子と佐祐理の方を向きながら懇願するように叫ぶ。彼は自分の父親を完全に理解できているわけではなかった。

「私も、王にはそう奏上させて頂きました。別に王族の帯同なんていりませんから、特例として許可を頂きたい・・・と。でも、そのまま了承されませんでしたよ。相沢の騎士団の力を持ってすればこの程度の反乱、あっという間に鎮圧出来るのだからその必要はない。と言われました」

佐祐理も俯くだけで何も答えない。彼女には今回の話の裏が既にほとんど見えていた。

祐一は頭を掻く。こんな気分にさせたくないから言いたくなかったんだがなぁ・・・と顔は言っていた。

もとより、彼は国まで知らせが来て、王都に呼び出された時点でこうなることは読めていたのだから。

王が自分の家を嫌っているのも知っていたし、理由もおぼろげに分かっていた。

だから、異端者に相沢家をぶつけて共倒れをさせようとするのは想像の範疇だった。

(まったく・・・どうやったらこの素直な子供達の親なのにあんなひねくれた馬鹿なんだろうかね・・・)

祖父の長年の苦労が祐一には分かった気がした。







こうして夜は更けていく。